鰯

少女邂逅の鰯のレビュー・感想・評価

少女邂逅(2017年製作の映画)
4.1
クリームソーダは世界で一番おいしい飲み物

級友のいじめで声を発することのできないミユリにとって唯一の支えはたまたま拾った蚕の「つむぎ」だった。ある日、級友の清水に「つむぎ」を捨てられてしまったミユリは、真っ白なワンピースを着た神々しい少女「富田紬(つむぎ)」と出会う。

痛くてヒリヒリしてばかばかしくて愛おしい。そういった決して取り戻せない青春の一瞬を、「これでもか!」と映し出した快作でした。観た後、幸せな気持ちになる類ではないけれど、それでも説明しがたい充足感は得られる。この映画をうまく描写する日本語が思い付きません...

冒頭のミユリと母とのやり取りで「これは面白そう!」と身を乗り出しました。一緒に晩ご飯を食べていて、ミユリのコロッケに勝手にソースをかけ始める母。何も言わないミユリ。ここだけで、関係性やキャラクターがわかる!わかる!!

ミユリと紬のやり取りが微妙な緊張感を孕みつつ、それでもどんどん距離が縮まっていくというのがメイン。仲良くなって守ってあげたい、もっと相手のことを知りたい、他の人にはとられたくない、ふたりだけの秘密をつくりたい。色んな感情がごちゃまぜになって溢れっぱなしです。物語の要所で出てくる蚕にまつわるエピソードも後になって、すごく効いてくる。「虫には痛覚がない」「人間のために糸をつくる」「近づきすぎるとだめになるから、分けてあげないとだめ」。どれもが2人の関係性にはね返ってくる。
時々ホラータッチに描かれる「ミユリから見た紬」と、徐々に明らかになる現実との差が面白い。面白いと書くのは少し気が引けるけれど、結構ドキドキハラハラしながら観られる。後から振り返ると、紬が話していた一言一言の意味が全然違って聞こえてくる。という意味ではもう一度観たい作品です。

些細なことで学校での立ち位置が変わったり、本当にばかっぽい(もしかすると空っぽの)友だちがいたり、といったところはすごくリアル。でも、紬がふと口に出す「君には生きる価値があるんだよ」とか、虚構っぽいセリフも入り込んでくる。変なバランスなんだけれど、いいんです。

画面を分割したり、iPhoneで撮った映像を使ったりと色々な実験も面白かった。2人が照れながらもお互いを撮影したりする様子は、若干ドキュメンタリーっぽさもある。何というか、演技っぽくなかった。また、喫茶店などで2人が話し込むシーンでは、じっくりと長回しも。
そうやってゆっくり映す一方で、2人の関係が希薄になる終盤のテンポは驚くほどはやい。本当に声が出るほどびっくりしました笑

ミユリを演じた保紫萌香さんは、徐々に話せるようになる過程が良かったです。初めは全く話さず、「えっ、あっ」とたどたどしく話していて、最後は明るさも出てくる。伏し目がちだったけど、人の目をみて話すようになる。
紬を演じたモトーラ世理奈さんは、近づきがたい魅力と不安をかき立てる影が両方ある不思議な人でした。心の底から怖いと思うようなシーンもあれば、この人だけいればいいと思えるようなシーンも両方驚異的。
この2人の魅力があまりに強すぎて、変な話ですが「セリフとかどうでもいいな」とさえ思ってしまいました。

あと音楽とっても好きです。かかるタイミングとか含めて最高でした。
鰯