おなべ

累 かさねのおなべのレビュー・感想・評価

累 かさね(2018年製作の映画)
3.6
【 “美醜” 】
醜悪な顔を持ち過酷な運命を強いられ美貌に取り憑かれた女、出世に執着し才能に嫉妬する女、相反する価値を奪い合い、傷付け、本性を剥き出しにしてドロドロの欲望に塗れる女達を描いた人間悲喜劇。

《松浦だるま》の原作漫画を《佐藤祐市》監督が実写映画化。《土屋太鳳》✖️《芳根京子》がW主演を務め、《浅野忠信》《筒井真理子》《横山裕》が脇を固めている。

〈口紅〉を塗りキスをすると顔が入れ替わるという摩訶不思議な設定。Wヒロインがお互いの役柄を見事に入れ替わり立ち替わり演じている。それも殆ど違和感が無く、その面持ちや立ち振る舞いまで巧く憑依していた。また、《土屋太鳳》《芳根京子》共に器量は申し分なく、普段は透明感のあるお嬢様・或いはフェミニンな女性を演じている印象が強かった為、本作における恃むところ頗る厚く、敵愾心剥き出しで毒された物言いの「丹沢ニナ」という骨太な役柄はとても新鮮で、演技の幅が広がるような新境地への予感を感じさせられる好演を見せていたと思う。

個人的な嗜好に偏るが、もう少しノワール要素を盛り込んで悲劇的な演出を助長して欲しかった。韓国映画でこの題材であれば、より泥臭く悲劇的で、尚且つドン底に突き落とされるような良質なノワール作品に仕上がったかもしれない。


【以下ネタバレ】


◉“禁断”とされている物には絶えずリスクが付きもので、リスクと上手に付き合わないと累とニナのように破滅の道に堕ちるわな。そうゆう意味ではもう少しやりようがあった気がする。しかし、リスクを承知で危険を冒してでも「綺麗な顔でいたい、有名になりたい、好きな人と好きな事をしたい、出世したい、あの顔になりたい、あの舞台に立ちたい…」と、欲望とは禁忌を犯して自分を見失っても尚の価値があり、欲望は抑えようとして抑えられるものでは無いという事を2人は証明していた。成る程そう考えると、この設定も脚本もやはり巧く出来ていると思う。
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