さすらいの旅人

ある女流作家の罪と罰のさすらいの旅人のレビュー・感想・評価

ある女流作家の罪と罰(2018年製作の映画)
3.8
古紙とインクの匂い、そしてタイプライターの音が心地良い映画
【VOD/Disney+/配信視聴/シネスコサイズ】

秋の夜長にじっくり観る映画としては最高だ。
有名人の古い手紙を偽造して収入を得る落ちぶれた女流作家の物語だ。
新作は書けないが、手紙の偽造に妙に高揚感を持ち、充実した生活を送る作家が何故か切なく悲しい。この映画を観て、古い手紙が高値で取引される世界を初めて知った。有名人を詳しく調べその気になって書くことは、逆に言えば彼女の才能を別な意味で引き出していることが面白い。

主演のメリッサ・マッカーシーはどん底の女流作家をノーメイクとぼさぼさのヘアースタイルで演じている。体も巨体であり、ただのアル中の年配おばさんにしか見えないのが凄い。相棒のゲイの中年男性はリチャード・E・グラントが演じ、その日暮らしの能天気な男を好演した。両者ともアカデミー賞主演女優賞と助演男優賞にノミネートされており、さすがに上手い。

冬のニューヨークの街や場末のカフェバーを背景にした雰囲気が最高にいい。映画全体に流れるお洒落なジャズの名曲も妙に映像にマッチしており、監督の映画センスの良さを感じる。ラストに流れるヘンリー・マッシーニの名曲「シャレード」を聞いた時、この映画は伝記映画としても良かったが、サスペンス映画としても見応えがあった事をしみじみ感じた。