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金子文子と朴烈/朴烈(パクヨル) 植民地からのアナキストのmaverickのレビュー・感想・評価

4.5
2017年の韓国映画。実在の人物である朴烈(パクヨル)と金子文子を中心とした物語であり、二人に関連した事件を描く伝記映画。監督は『空と風と星の詩人 尹東柱の生涯』のイ・ジュニク。動員数235万人のヒットを記録した。


有名な朴烈事件を忠実に映画化。朴烈と金子文子の目線で描くことにより、背景がどのようなものであったかをより深く感じ取ることが出来る。ドラマチックに描かれた映画としての面白さも十分で、強い絆で結ばれた二人の美しい愛の物語でもある。事件のことは記事だけ見ても理解し難い部分も多いが、本作を観れば二人の行動の理由もすんなりと理解が出来る。日本人としても学ぶべきことの多い作品であった。

人種差別を平然と行う者や、関東大震災時の朝鮮人虐殺事件など、非道な行いの日本人の描写には胸が痛い。だが驚きだったのは、それらの非道な行為に異を唱える日本人も多く描かれていたことだ。事実そうであったわけで、そこをより強調した描き方には好感が持てた。良心を持った日本人と、そうでない日本人とを比べ、何が善で何が悪かを我々は悟ることが出来る。監督は別に日本に配慮したわけではなく、事実を基にそれを作中で効果的に使用したというわけだ。作品の本質は、日本=悪ということじゃない。監督の熱い思いがしかと胸に響く。

金子文子を演じたチェ・ヒソは、第54回大鐘賞の主演女優賞と新人女優賞をダブル受賞。その年の国内の様々な映画賞で新人賞を総なめという快挙を成し遂げた。第一声から流暢な日本語で驚くし、容姿も表情も日本人で違和感がない。「あれ、このキャスト日本人だっけ?」と混乱したほど。日本語が流暢なことに加え、実に生き生きとした演技も披露する。壮絶な生き様とは裏腹に、明るくひょうひょうとした性格が特徴的。相手を食ってしまうかのような凄味も見せ、それでいて艶っぽくて魅力的。彼女は本作で誰よりも輝いていたし、日本語の流暢さにおいて彼女の右に出る者は韓国にいないのではないか。本作では日本人の役であるため、たどたどしい韓国語という表現も見事だった。彼女は幼少時に5年間日本で暮らしていたそうで、日本語の違和感の無さはそこで形成されたのだろう。日本語が堪能であったことからイ・ジュニク監督に抜擢され、『空と風と星の詩人 尹東柱の生涯』で重要な役も演じている。そして続く本作で主演に起用。彼女の才能を見抜いた監督の見る目も確かである。

朴烈を演じたのは、『パパロッティ』のイ・ジェフン。金子文子役のチェ・ヒソが際立つだけに序盤の印象は今一つであったが、後半の裁判シーンでの迫真の演技には目を奪われた。チェ・ヒソの演技が光っていたのも、彼の安定した高い演技力があったからだと思う。

チェ・ヒソ以外の韓国俳優の日本語には、やはり若干の違和感があり。それくらいかな不満点は。日本の内閣の描き方とか凄くそれっぽかったし、この監督は良く研究している。朴烈と金子文子の有名な写真を使ったエピソードや詩の引用など、演出も冴えている。だんだんと感化されてゆく日本人の描き方も良かったし、そうなるのも自然に思えた。


劇場公開時には日本でもリピーターが続出したらしいが、それにも納得。二人の生き様は破滅的でありながら、芯が通っていて心に響く。メッセージ性が強烈で、見応え十分な一本であった。良作だ。
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