純

寝ても覚めてもの純のレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
4.0
あんな思い切りの良さを、ひとはどこに隠し持っているんだろう。迷いや葛藤をすべて飛び越えて、その一瞬の直感で駆け抜ける朝子のロングヘアが揺れている。曖昧さはどこですか。掟や倫理の枠組みでつくられた「正しさ」に、彼女だけは捕まらないで生きてきたんだなと思う。赦されるか赦されないかが大事でないひともいる。ひとは自分のやり方でしか、人生にけじめをつけられない。朝子は悪者ではない。

寝ても覚めてもわたしを離さない何かが、夜と朝をわからなくさせる。ぐらぐらと視界が揺れる世界だからこそ、朝子はあんなにも直進できた気がしている。怖いんだけどね。朝子が怖くてたまらなく見えるときもあるんだけど、朝子も別に誰かを傷つけようとしていたわけではなかったんだよなあ。皆それぞれ違う弱さを抱えているのに、朝子の弱さだけがあまりに鋭かったという、ただそれだけのことだった。変わっていない自分を悔やむような描写を見てはじめて、ああこの子もちゃんと闘っていたのだなと思った。終盤に爆発する狂気が、それから先の展開にささやかな穏やかさを添えている。この文章を書きながらやっと私は「あんなに怖がってごめんね」と思えるようになった。

亮平は海で朝子は川という印象だ、という感想を読んで、私もそう思った!と胸が高鳴った。最後にふたりが並んで濁流を見つめるとき、亮平は海みたいに、自分に流れ込んでくるのか、どこか別の場所に去っていくのかわからない朝子を遠くから眺めているように見えた。もう信じられない朝子をうつくしいとは思えないけど、どこに流れ着くのか見守ってあげるような広さがあるんだよね。朝子は自分の内面を見つめた上で、濁流でもその「綺麗」な動きをとらえている。そう、この映画では朝子は麦も亮平も見ていなくて、はじめから川を、自分だけを見て、気にして生きていたのかもしれなかった。はじめから決まっていたのかな。あれもこれも、なにもかも。
純