JunichiOoya

願いと揺らぎのJunichiOoyaのレビュー・感想・評価

願いと揺らぎ(2017年製作の映画)
5.0
我妻さんには震災で津波に呑まれる前の南三陸の日常を切り取った『波伝谷に生きる人びと』という「前作」がある。東北学院大の学生として南三陸町の民俗調査に関わる中で出来上がった記録映画。
今回は、その続編的意味合いもある映画なのだけれど…。
作家は作品を撮る時に、ある時は被写体の想いを代弁しようとしたり、または被写体に仮託して自身の考え方を語ったり、またある場合には製作を依頼したスポンサーの気持ちを伝えようとしたり、まあ様々に「表現」するものだと思う。
そんな中で今作は、被写体より何より我妻さんが自分自身を語りたくて撮った映画なんだなあと感じた、というかそんなふうに伝わった。
前作には民俗学調査の「観る側」視線もあったけれど今回は、カメラの向こう側に誰がいるシーンでも、その波伝谷の人たちの声よりももっと大きく我妻さんの「声」が聴こえてきた。
ある住民(津波後、「元住民」になってしまっているが)男性の大厄祓いの宴会シーン、カメラをまわしながら皆から酒をすすめられ明らかに酔っ払い多弁になって、なおもカメラをまわそうとする我妻さんを見て、感じて、思わず私は泣いてしまった。
もちろん、幹生さん家族の「今」をラストに挿入することで記録映画としての落とし前もきっちりつけて、出色のドキュメンタリーになっているけれど、私にはやはり我妻さん自身の自画像映画として強く心に残る映画だった。
今年公開作の中でも抜きん出た映画。映画好きは元より、民俗学や震災、何より「人」に興味を持つ方には是非ともご覧になっていただきたい。
昨日の大阪公開初日、空き席があったのはなんとも無念。この映画、掛け値なしで傑作ですよ。
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