にしやん

マーウェンのにしやんのレビュー・感想・評価

マーウェン(2018年製作の映画)
1.5
ヘイトクライム(?)で深い傷を負いながらも、「フィギュア撮影」という空想と創作の行為によって立ち直ろうとした実在の写真家マーク・ホーガンキャンプの半生を基にしたヒューマンドラマやな。

代表作「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「フォレスト・ガンプ 」の世界的巨匠ロバート・ゼメキス監督の最新の大作ということで、アメリカでは強気の12月公開、公開前はオスカー候補か?とまで言われてたみたいやねんけど、いざ公開してみると、結果は批評的にも興行的にも大爆死で、制作費が3900万ドルに対して4000から5000万ドルの大赤字で惨憺たるもんや。当然日本公開も遅れに遅れた上、公開館も東京ではたった3館というめちゃめちゃしょぼい状況になってしもた。確かにゼメキス監督、最近あんまりパッとせんわな。オスカーかてノミネートもされへんし、日本で公開されてもあんまり話題にもなれへんし。せやけど、そうは言うてもあの映画史に残る「バック・トゥ・ザ・フューチャー」、「フォレスト・ガンプ」の監督やで。「ロバート・ゼメキスの最大の失敗作」とまで酷評されてる本作やけど、ここまでボロカスに言われると逆に興味が湧いてくるっちゅうも人間の不思議な性やな。果たしてホンマにそこまでのクソ映画なんか?もしそうやとしたら何がどうアカンのかを無性に確かめたくなり、このクソ暑い中、思い切って日比谷まで出かけての鑑賞じゃ。

ネタバレ無しで大きなあらすじを説明すると、男たちから暴行を受け、瀕死の重症を負った主人公が、昏睡状態から目が覚めると、自分の名前も覚えてへんし、歩くこともでけへん状態。それに、脳に障害を抱え、PTSDにも苦しむ彼は、やがて小さなフィギュアの撮影に夢中になり始め、自分や自分の周りの人等や、そして自分を襲った男たちを模した人形を使って空想の世界「マーウェン」を作り上げていくっちゅう話や。

映画の出来のほうやけど、はっきり言うて全くおもろない。まあ、これは残念ながら、失敗作やな。アカンわ。少なくともわしには完璧無理やったわ。ナチとの闘いやないで。睡魔との闘いやで。

ただ、褒めるとこもない訳やない。モーションキャプチャーのシーンは文句の付けどころのない出来やし、ここだけは称賛に値すると思う。実際の登場人物たちのキャラクター性を失うことなしに、しかも人形らしさも失われてへんフィギュアを実際に開発して、顔の表情で豊かな感情表現を実現するCG技術については大したもんや。それと、フィギュアの動きについても、「トイ・ストーリー」とは違て、人間が動かしているということが前提の動きになってるとこは、ようこだわってるわな。特にミルクがこぼれるシーンなんかそうや。それに、主人公の現実世界での日常と、「マーウェン」っちゅうミニチュア世界での想像が、交互やったり、クロスオーバーするように展開されていき、それが次第に現実世界との線引きが曖昧になっていくような演出は、そこそこスリリングやったりするし。おまけに、自動車の形をしたタイムマシンが出てきた時には「まさか自作の名作のパロディすんの?」って感じで流石やなと思ったりもした。また、本作の全編を通じて流れる音楽かて、往年の彼の名作を彷彿とさせるもんやったしな。

では、なんでこの作品がアカンかったんか?について、思うことを箇条書きにすると、

・主人公が自分に似せたヒーロー撮影をしていること自体に、そもそもなんの意味があるのか具体的に説明がなく、いまいち分からん。箱庭療法についてもちょっとは触れるべきやったんでは?ミニチュアの世界が主人公のどのような内面、環境、過去によって生まれたんかを本来はもっと描くべきやと。

・フィギュアのシーンの尺が長すぎで、現実世界のほうの実際の主人公の苦しみや辛さと言ったものが殆ど描かれていない(ほんの数カット)ため、ドラマとして共感がしにくい。もう少し現実世界の主人公をより深く描くべき。なんせ、フィギュアのシーンに力入り過ぎ。最初は物珍しさもあるけど、途中でいい加減飽きてくる。

・特に現実世界において主人公の人間関係はもっと色々あったにも関わらず「ニコル」とのロマンスの話に単純化してしまった割りには、ミニチュア世界のドラマはかなり盛り過ぎていて、現実世界とミニチュア世界のバランスが異常に悪い。また、脚本の不出来と登場人物の感情描写のちぐはぐさもあり、観客が感情移入することができない。

・主人公に暴行を加えた若者の一人の腕にハーケンクロイツの刺青があったからという理由しかないのに、ミニチュア世界の敵がなぜかナチスの親衛隊になってしまっている。その結果、映画の終盤に至るまで観客に対して、この映画のテーマは「フィギュアを使ったナチスの批判」というミスリードしてしまっており、この映画の本来のテーマ性を弱めてしまっている。また、そもそも暴行の理由についても、実際ヘイトクライムかどうかも怪しい。

・展覧会の開催に至るまでのプロットが完全に抜け落ちていて、周りの人々が彼を具体的にどのように支えていたかが殆ど見えず、主人公がステップアップしていく要素自体が薄い。

・ミニチュア世界の主人公の部下になぜか女性しかいないので、主人公の変態的な印象を強める結果になっている。

・現実世界でのメインプロットのニコルとのロマンスやけど、彼女への迫り方が病気の影響もあるとはいえ、ちょっとキモイ。

てなところやな。

せやけど、わしがいっちゃん致命的やと思たんは、ズバリ、

「ミスキャスト」

とちゃうか?最近の「ビューティフル・ボーイ」や「バイス」で観ての通り、確かにスティーブ・カレルは名優やとは思うけど、今回の主人公については「ちょっとちゃうんとちゃう?」って感じたんは、たぶんわしだけやないやろと思う。

この映画やけど、この話の発端となるホーガンキャンプさんの身に起こった実際の事件についても殆ど描かれてへんところからも分かる通り、映画の内容はホーガンキャンプさんを描くことより、明らかにモーションキャプチャーを使ってフィギュアを動かすことに主眼が置かれた作品やと言えそうや。モーションキャプチャーが主役で、ホーガンキャンプさんは単なる出汁やな。ホーガンキャンプさんについてもっとちゃんと知りたい人は、この映画よりも本作の下敷きになったジェフ・マルムバーグ監督のドキュメンタリー作品「マーウェンコル」を観たほうがええことだけは確かのようや。
にしやん

にしやん