YAJ

ビール・ストリートの恋人たちのYAJのネタバレレビュー・内容・結末

3.4

このレビューはネタバレを含みます

【gemstone】

 美しい作品。
 予告編映像とバックに流れる“Killing Me Softly with His Song”に、王道ラブストーリーのニオイを嗅ぎ付け観てみた。実に美しい。

 ただし、監督が『ムーンライト』(アカデミー作品賞@2017)のバリー・ジェンキンスだ、ひと筋縄ではいかない。甘く切ないラブストーリーの背景に、黒人差別と冤罪事件という1970年代ニューヨークのハーレムの世相が描かれて、結末は暗澹たる思いと不条理で満たされる。

 そこに希望を見出すか、自由獲得のための更なる闘争、あくなき抵抗の必要性を感じるかは鑑賞者に委ねられるところだろうか。

 Jazzyで心地好い音楽と(それが時代を反映させてレコードから流される)、バリーならではの映像美の中に、キラリと光る何かを見つけられたら、ハードな時代背景の中に、素敵な映画の魔法を見ることだろう。その何かは、とあるワンシーンでもBGMでも良し、短いセリフ回し、役者の表情、なんでもいい。小さな煌めきが、そこかしこに置かれているような、そんなキラキラした作品。



(ネタバレ、含む)



 予告編のイメージだけで観にいってしまって、実は時代背景すらよく分かってなかったっス。

 上記のとおり、洒落た音楽がレコードから再生されるシーンでは「今のハーレムのオシャレな若者は、再びアナログに回帰してるのか~」、フムフムと納得。派手めの衣装も、実にスタイリッシュに見えて、時代はめぐって、今またこの手のファッションもありだなと、半世紀前の暮らしぶりがぐるっと回って先鋭的に見えたりもして。勘違いも甚だしい(苦笑)

 とはいえ、自分の勘違いを棚上げして分析するなら、本作で再結成された『ムーンライト』でアカデミー賞にノミネートされた撮影、音楽のチームが作り上げた空気感が、視覚にも聴覚にも古臭さを感じさせなかったのはダテじゃないゼ、ってことだと言ってみる(笑)

 あるいは普遍性を感じさせる、まっとうなラブストーリーという骨子があってのことかもしれない。原作があって、当時キング牧師らと公民権運動の旗手として活躍したというジェイムズ・ボールドウィンが70年代に書いた作品は「IF BEALE STREET COULD TALK」というタイトル。未読ながらが、”ビール通りに口あらば”、恐らく、冤罪を晴らす証言をしてくれるのに、という内容ではないかと。 

 それを映画では、真相解明のサスペンスや、ハリウッドお得意の法廷劇を絡めることなく、若い二人の純愛と、それを支える大きな家族愛にフォーカスし、丹念に物語を紡ぎあげたあたり、バリー・ジェンキンスの手腕に依るところは大きいかもしれない。

 加えて、本作で長編作品初出演、初主演の新人キキ・レインの可憐さと、その母親役のレジーナ・キングの揺るぎない母性を体現した貫禄は、見応えある演技だった(意味不明の長回しのメイクシーンも、なぜだか妙に印象的・笑)。
 手練れの制作陣、名優に囲まれ、まだまだ原石gemstoneともいえるキキのデビューを観れただけでも、めっけもんの作品と言っていい。
YAJ

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