Mikiyoshi1986

スリー・ビルボードのMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.8
『スリー・ビルボード』じゃなくて『スリー・ビルボーズ』ね!
なんて細かいことすらバカらしくなるくらい、
意表を突きまくられ、久々に衝撃的な感動が全身を駆け抜けた大傑作でした!!

レイプ殺人で娘を亡くした母親が三枚の看板広告で犯人逮捕を喚起するという、如何にも重苦しそうな人間ドラマ。

が、しかーしっ!
「これは母親が皆の協力で執念の復讐を果たす奮闘劇か?」

と思いきや、
「いやいや、これは被害者家族VS怠慢警察&世間との社会派ドラマだな!」

と思いきや、
「警察署長の告白&ブランコ…。ハッ!もしやこれは存命中に職務を全うしようとする署長と遺族の感動ドラマ…つまりは黒澤明『生きる』へのオマージュ作品か!」

と思いきや、
「憎しみが憎しみを生み、愛が愛を生む差別社会…まるで『クラッシュ』のようなオスカー狙いの群像劇じゃ…」
と思いきや……

もう気持ち良いくらい次々と予想を裏切られる上に、ブラックな笑い&ウィットに富んだ暴力作風がちょっとコーエン兄弟のようでもあったり。

しかもそんな母親ミルドレッドを演じたのはコーエン作品『ファーゴ』で女警察官を演じ、またジョエル・コーエンの妻でもあるフランシス・マクドーマンド!
そしてズボラなレイシスト警官は『グリーンマイル』の凶悪犯だったサム・ロックウェル!
んで署長は『ナチュラルボーンキラーズ』の悪漢ウディ・ハレルソン!
もう素晴らしすぎる配役!ズルすぎ!

舞台は差別意識が強いミズーリ州の田舎町。
ミズーリは南北戦争時代、北軍に属しながらも州内で南北対立が激化した歴史があり、
それは本編でも色濃く反映されています。

まずディキシー(Dixie)とはかつて南北戦争時代に白人支配主義側だった南軍の愛称で、
レイシスト警官ディクソン(Dixon)はその名を象徴的に担います。

そんな彼が改心し、バーで奮起するシーンでは南北戦争の虚無について歌ったThe Bandのカバー『The night they drove old Dixie down』(奴らが南軍を打ち負かした夜)が挿入されるという、この演出がこれまた素晴らしい…!

そしてあるアイダホ出身者の素性が明かされた時、やはりそれは北軍の義勇兵を象徴していたと同時に、現代における痛烈な風刺にしっかり置き換えられてたという巧妙さに心底感嘆。

それぞれの信念と正義に則った者たちが呼応し、
前述以外にもアメリカ現代の世相を暗に反映させた本作。
この緻密すぎる脚本を書いた監督は本当に天才だと思います。

そして糸口を明確にすることなく迎えるラストで、最後にこれはアメリカ最新版の西部劇でもあったことに気づかされ、またまた強く打ちのめされたのでした。

本年度のハリウッド最高傑作!
もうこれ、オスカー作品賞と脚本賞は間違いないのでは?
とにかく明日の授賞式が楽しみですね!
Mikiyoshi1986

Mikiyoshi1986