Yoshimasa

スリー・ビルボードのYoshimasaのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
3.9
純粋な人間ほど、恐ろしく、そして愛おしい。

娘をレイプされ殺された母親。警察の捜査方法と署長にずっと不満を抱えていた彼女は、家の近所にある大きな3枚の看板に彼らを批判し問いかける広告を出す。彼女が掲示した3枚の広告が、警察、町、そして彼女自身に影響を及ぼし、物語は思いもよらない展開を見せる。

小さな町の大きな事件。警察署長とその部下による捜査の仕方に納得いかない母親がとった大胆な行動。極端に言えば「騒音おばさん」みたいな感じでしょうか。当事者にしかわからない悲しみや怒りはあるものの、あまりにも過激な行動は、時に人を驚かせ、遠ざけてしまうものです。それは彼女とその家族だけでなく、本作の場合は広告会社にも影響がおよび、侮辱された警察官の一人によりこの会社は圧力をかけられます。あまり言ってしまうとネタバレになるので、この辺で…。

怒りの矛先を真っ先に向けられた署長。捜査を怠っていたわけではなく、人一倍解決に向けて動いていた人物。しかし証拠が乏しく操作は難航。そうこうしているうちに広告が掲示され、署内も母親に対する怒りが噴出。誰よりも慕ってくれていた部下である一人の警察官は今にも暴れ出しそうな雰囲気。そんな中、署長にある悲劇が訪れるが…。あまり言ってしまうとネタバレになるので、この辺で…。

そしてこの警官。差別主義者であり粗野で暴力的。母親の行動に怒りを覚えるも、署長にたしなめられ拳をおさめる。しかし署長を襲った悲劇に、彼は自身の行動を改めるようになるが、あまり言ってしまうとネタバレになるので、この辺で…。

本能による行動を自身で律することができるかどうかが人間と動物の大きな違いだと思うが、この映画に出てくる人物は自身の行動を律しながら本能によって突き動かされている。本能で動くと人間は、こうも攻撃的であり直情的であり、何より純粋である。登場人物も署長以外は基本的に好きになれない人物が多いが、この映画が終わるころにはみんな愛おしく見えるのである。

とはいうものの、期待しすぎて予想しなかった方向に物語が進んでいった。でも面白かったのでもう一度見たい。
Yoshimasa

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