竜平

スリー・ビルボードの竜平のレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.8
とある田舎町の道路沿いに並ぶ3つの立て看板、一人の女性がそこへ依頼する「とある広告」が発端となって巻き起こっていく人間模様を描く。珠玉のシニカル系ヒューマンドラマ。

こんなストーリーをよく考えつくなと感心してしまった自分がいる。シンプルかつ奥深い。冒頭でとある女性が起こす何気ない、しかし大胆な行動。それをキッカケにあれよあれよという間に周囲が巻き込まれ、心をかき乱され、やがて様々な感情で溢れ返っていく。それはこの映画を見てるこちら側も同じで、連鎖していく出来事にグイグイ引き込まれ翻弄されていくはず。確固たる決意のもと、というか半ば狂気的に仕掛けてるような女性の姿があり、これがメインで進むかと思いきや関わる人物それぞれの過去、のみならず人間性までふとしたところで判明していく、その流れが秀逸。フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェルと、このメイン3人が文句なしに素晴らしい、冷静だけど内面が滲み出るような演技は見もの。またその取り巻きも味のあるキャストたちが彩りまくる。そもそもの発端である過去の事件、その真相よりも被害者の遺族と周りの様子に焦点を当てて展開していくあたりもわりと斬新なように思う。淡々と進んでいくようで驚くほど飽きさせない展開に魅了されること請け合い。

にしても、内容には敢えてあまり触れないでおくけども、ここまで気持ちのやり場に困る映画ってなかなかないなと。もちろんいい意味でね。滲み出てくる登場人物たちの行き場を失った怒りや悲しみといった感情、その隙間にじつは存在してる優しさや温かさなど、人間の本質を見せられてるようで心をギュッと摘まれるような想い。じつはブラックコメディやサスペンス的な様相でもあるのがおもしろい。セリフとして出てくる差別的な思想や発言というのもいいスパイスになってる気がする。で終盤、映画が終わりそうな気配を感じた時に「まだ終わらないでくれ、もうちょい先まで見させてくれ」と願ってしまったのって俺だけなのかな。おもしろすぎて終わってほしくなった、久しぶりにこんな気持ちになったなと。ちょい暗めのヒューマンドラマ好きに確実に薦めたい一本。
竜平

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