純

ブリグズビー・ベアの純のレビュー・感想・評価

ブリグズビー・ベア(2017年製作の映画)
4.6
小さい頃に信じていた英雄やお姫様の背丈を追い抜いたって、ハッピーエンドは作れるよ。怖いという気持ちが蓋をしてしまったきみの命は、すぐにでもまた踊り出せる。きみが大丈夫になれない世界なんてごめんだ。幸せになることはわがままなんかじゃないって、本当に知っているのは誰だろう。

おとぎ話をずっと愛していたい。美しいことだと忘れずにいたい。純粋な気持ちに溢れているひとが大人の失敗作みたいに気味悪がられてしまうのは、あまりにも悲しくて怖いな。ほんの少しでいいから、哀れみ以外の視線を浴びてみたかった彼には、知らないことが沢山あった。それでも、おとぎ話を外の世界で酸化させない力、自分の大事なものを守る強さと勇気があったのもジェームズだったんだよなって、皆どこかで羨ましかったんだ。

私たちは歳を重ねるほどに聞き分けの良さを身につけてしまって、「いつか」のために大切にしまっていた何かをいつの間にか置いてけぼりにしてしまう。一方で、どんどん気難しくなって、複雑な物事を解明しないと気が済まなくなった。でも、監禁されていたことやその道具にブリグズビーが使われていたことに意味を見出す必要があるかなんて、今ここにいるジェームズを見れば充分だったって言えなくちゃ、嘘かもね。この瞬間、目の前にいる相手を好きになりたいな。泣いてしまうくらい沢山のものとすれ違っている私たちが、今、こうして向き合って立っている。異常気象よりも尊い可能性がここにあるよ。

悪いひと、というよりも怖いひとがひとりもいなくて、なんだか張り詰めていた気持ちが溢れ出てしまうような世界だった。温かさを理由に流す涙は気持ちがいい。私が味方についてるよと言える、言ってもらえるひとたちと一緒にいるって、なんて心地良いんだろう。正義に追い込まれる夢なんてあってほしくないと思う。生き方に一律化は必要ないよ。誰も証明できない平凡さで、私たちはどんどん幸せになるべきなんだ。

幸せにバランスは必要ない、って言ってくれた友達の台詞を思い出しながら、日曜日のお昼みたいな幸福を、今も明日も三年後の夕暮れにも感じられること。どんなときも万歳をして生きていたいねえ。幸せのありがたみを実感するための不幸せなんて、もう古いのさって笑ってやりたいや。今すぐにでもあの子や知らない誰かも幸せになれる。毎朝早起きするのは仕事に間に合うためじゃないし、孤独にならないための約束なんて弱々しいな。上に伸びないなら下に根を張ったらどうだろう。前に進めなくなったら、ちょっと隣の道に寄り道しちゃおうよ。優しい毎日を送るきみを咎めるなんて、一体誰ができるっていうんですか。

安心して眠りにつけるのは幸せだ。自分のお守りを自分自身で守ること。馬鹿にされるべき愛なんてないんだなあと、ただ浸るだけじゃなくて与えていきたいね。優しい気持ちになることで出来上がる自分がやわらかな画面越しに見えるとき、あの英雄がいつの間にか、きみ自身になっている。
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