ろく

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のろくのレビュー・感想・評価

4.0
観ていて思ったのは先日に観たネットフリックス映画「ウインター・オブ・ファイヤー」だ。あちらはウクライナ、そしてこちらは韓国。ドキュメンタリーとドラマの違いがあるけれど権力側の暴力はひどい。それには悩んでしまう。

ただちょっと待て。この作品はあまりにも現実の「タクシー運転手」とは違う(それは息子も言っている)。つまりよりドラマティックな話になるために多少脚色がされているのだ(実際あのようなカーチェイスは起きるはずもないしね)。

でそこに関して。以前の僕は藤井監督の作品なんかに対してもそうでそれを「是」としなかった。なぜならそこには「ウソ」があるから。そしてその「ウソ」はその事件さえも貶めてしまうから(藤井監督の「新聞記者」はどうだったか)。

でも少し考える。まず「実際」を撮る。そんなことが出来るのだろうか。ドキュメンタリーだって「客観的」なものなどできるはずがない。どこか主観的になる。それをダメだというなら映画なんか撮らなくてもいいはずだ。そこにはなんらかの「ウソ」があるんだ。そうじゃないと言いたいなら反対側の意見も明快に乗せるといい。

でもだからといって明らかなる「ウソ」はどうなんだろう。以前ならそれはあまりに「作りこみ」すぎだと断罪した。でもその明らかなる「ウソ」は観客にその事件を「考える」力を与えてくれる。え?そのまま信じて「ひどい」しか言わない人がいるとしたら問題じゃないかって。それは観る側にも問題があるのではないか。最近はそう考えている。

だとしたら僕らが「実際」を、光州事件を、ウクライナを、あるいは浅間山荘を知るきっかけとしてこの手の映画はアリなのではないかとも思ってきたんだ。少なくとも韓国で起きたこと、チェコで起きたこと、ウクライナで起きていること。あるいは日本でこれから「起きるかもしれないこと」。それをエンタメという衣を纏いながら見せてくれるこの映画は意味がある。

韓国映画独特のエモムービーはこの映画でも健在だ。スローで死んでいく人たち。そして手に汗握る人の尊厳の闘い。僕らは楽しみながらも「本当はどうなんだろう」そう思って少し調べてみる。本を読む。行動する。それだけでもこの映画の功績にはなるだろう。映画は面白い。でも面白いだけではない。僕らに何らかの行動を起こす契機を与えてくれるんだ。
ろく

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