Inagaquilala

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.8
これまで近くのシネマート新宿で公開されていたのだが、新宿ピカデリーでも上映が始まり、どうやら拡大公開となっているようだ。韓国でも1200万人の観客動員を果たしたという大ヒット作品。前半は、ややコメディタッチで進んで行く。報酬の10万ウォンという話を盗み聞きして、ちゃっかりその仕事を「横取り」したタクシー運転手のマンソプ。仕事はソウルから光州まで、ドイツ人の記者ピーターを送り届けることだった。折から光州では、全斗煥のクーデターを機に始まった軍と民衆の緊迫した対峙が続いていた。光州への道は規制されており、マンソプは機転を利かせ、無事にピーターを光州まで送り届ける。

1980年5月に韓国で起った光州事件を題材にして、世界に事実を伝えようとする外国人特派員と市井のタクシー運転手の悲喜こもごもの交流を通し、この現代韓国の里程標ともなる民衆の闘いを描いていく。タクシー運転手を演じるソン・ガンホのキャラクターを活かした前半のコメディタッチは、中盤からはがらりと様相を変え、民主化を求める市民のシリアスな闘いを描かれていく。

11歳の娘を家に残したまま、光州まで来たマンソプは、一刻も早く報酬を手に入れソウルに帰りたいと思っている。しかし特派員のピーターは、目の前で起こる民衆への軍の弾圧をカメラに収めようと、マンソプの制止を振り切り、闘いの中心へと歩を進めていく。最初からやや噛み合うことのなかったふたりだったが、地元・光州のタクシー運転手たちと交流を深めるうち、マンソプは目の前で起こっている出来事を理解するようになる。後半は銃撃戦ありカーチェイスありのアクション作品となっていくが、平凡なタクシー運転手を通して、韓国の民衆の姿を映していくチャン・フン監督の企みは見事に成実している。

軍のジープと光州のタクシー運転手たちがハンドルを握る業務用車とのカーチェイスは、なかなかの奇想ではあるが、妙に新鮮なものに映った。実話を基にしている作品だが、かなり脚色もされているのだろうが、涙腺を絞る演出ところどころに見られ、韓国で多くの動員を記録したというのもじゅうぶんに頷ける。たぶん監督が韓国の大衆に擬した、タクシー運転手を演じるソン・ガンホの存在がこの作品をいっそう良作へと高めており、最後のピーターとのエピソードも感動のポイントである。ソウルと光州は、車でおそらく3時間超くらいに距離だと思われるが、実際に走ってみたくなった。マンソプのタクシーで。
Inagaquilala

Inagaquilala