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犬猿のKHのレビュー・感想・評価

犬猿(2017年製作の映画)
3.9
年間ノルマ60本中21作品目。
『犬猿』観させて頂きました。

もともとプライムで見たい奴をずっとカートに入れたまんまいつ見るかいつ見るかと言った作品が多くある中、ようやく視聴に至りまして申し訳ありませんでした。
大変遅くなってしまってといった次第でございますが、

なんの予備情報も入れずに、予告編も特にみることもなく、ただ単純にジャケットの4人がどんな感じで絡むのか想像もできなかったので、非常に楽しむことが出来ました。
僕には姉が一人おり、同性の兄弟関係はないのですが、それでもよくわかると言うか、
いや、同性の兄弟姉妹が見たらもっと衝撃なんじゃないかなーと思ったりと、
むしろ僕自身はそう言った意味では、
若干俯瞰から見てる部分はあれど、あー俺は姉が一人で良かったなぁと思ったりもしました。

という事で、まずはネタバレなしの率直な感想をば、述べたいと思います。

『兄弟と姉妹それぞれがお互いに抱いてるコンプレックスと、その二組が絡んでく様子が実に自然でわかりやすく、見てて心地いいくらいでした。また、会話がなくとも絵を見てればしっかりと役者の感情が伝わってくるのは本当に4人とも上手いなと思いました。
また、ラストの解釈も好みというか、ただのいいエンディングにしないところが本当に好きです。ヒメアノ〜ルも好きだったのでこの監督好きなのかもしれません。是非お勧めしたい一本です。』

中でも芸人をやってるニッチェ江上はもともと今度でも演技派だったのは知っていたが、
グラドルからすっかり女優らしくなってきた筧ちゃんが、むしろそれを逆手に取ってちょっと頭の悪いグラドルから女優を目指す役というのが絶妙にハマってたと思います。


また、ここからは作品の内容を含むネタバレになりますので、まだ見てない方はここらで戻っていただくとして、


やはりこの作品は四者四様というか、全員の抱えているコンプレックスが本当に絶妙だったと思います。また、コンプレックスになっている部分と同時に、兄弟姉妹からはむしろそのコンプレックスが自分にあれば良かったのにと思えるのが素晴らしかったと思います。

兄卓司は暴力的で人の話を聞かず、粗暴で犯罪に手を染め、騙されるという短所はあるものの、
弟和成から見れば、そんな強くてカッコいい部分に憧れる部分があるのだ。

反面、弟和成は、真面目で誠実であり、仕事もまめにコツコツこなし、両親を大切にしたり、借金を返そうと努力する面があるが、
意志が弱く、嫌なことを断れなかったり、また喧嘩が弱い部分がある。
ほとんど正反対の様で、ただ押し殺しているだけで、和成は車が掛かりにくくなった際、
人を殺しそうな目をしてると言われている点や、
卓司にも両親に好かれようとマッサージ機を買ったり、借金を完済させるなどしている点があったりする。

もしお互いの良い面だけを見ていればこの二人の印象は変わっていたかもしれないが、
悪いところばかりが目立ってしまうのだ。

また、幾野姉妹は金山兄弟とは全く違うコンプレックスでお互いに嫉妬している。
姉由利亜は頭が良い点や、仕事ができる点が長所だが、その反面自身の容姿からくるコンプレックスがありその結果卑屈で、自分よりも美しい妹に強い嫉妬心がある。

しかし妹真子は自分には容姿だけしか価値がないことを知っており、また、容姿だけしかないにも関わらず女優として大成してない事に強いコンプレックスがある。
また、仕事のできる姉からマウントを取られると、つい自分の美貌によって姉から想い人を奪いたくなってしまうなど、
幾野姉妹もまた、悪い面ばかりが悪目立ちしてしまうのだ。

結果として金山兄弟は兄のタバコの不始末によるボヤ騒ぎがきっかけとなり、
また、幾野姉妹は姉が妹の着エロDVDを再生した事により壮絶な兄弟喧嘩の末、
兄は悪い連中に刺され、
姉は自ら手首を切るという最悪な結果となるのだ。

しかし、そこで自分があれほど憎んでいたはずの人物は自分が小さな頃から知る自分の兄弟姉妹なのだと再確認した事により和解へと向かうのだ。
その際の兄卓司のセリフが非常に泣かせてくれました。

『お前は小さい頃、俺の事が好きだったんだよ』

この言葉を聞いた時には思わず泣いてしまいました。和成は知っているんです。自分が意志の弱い男だということを、時には兄の名前で自分が優位なポジションにいたことも全部理解している、その上で、真面目にコツコツやっている自分より良い暮らしをしている兄を恨んでいるのも全部理解した上で気に入らない部分だったんだと思います。

親には思わず、いっそ死んでほしいなどとボヤいてみますが、結果としてそこはやはり兄弟なんだなぁと感じました。

しかし、ラストのエンディングでは、会社で姉妹が、また刑務所での面会では兄弟が、

『やっぱ、コイツムカつくわ』とお互いがお互いを睨みつけるところでエンディングとなります。
ただのハッピーエンドでも十分面白いと思いますし、四人とも幸せになっていくラストも見えましたが、
この作品の核はまさしくこのラスト、そして、タイトル通りの犬猿という部分だと思いました。
非常に楽しませてもらいましたありがとうございます。
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