めんたいこ

犬猿のめんたいこのレビュー・感想・評価

犬猿(2017年製作の映画)
3.5
"配られたトランプで勝負するっきゃないのさ、それがどういう意味であれ" - スヌーピー/ピーナッツ

本作ではただそこに生まれたというだけで共同体を生きる人々、つまりは家族の葛藤を描いた作品だ。私立の学校に入学しない限り、小中学校もその地域に生まれたというだけでグルーピングされ、その中で生きづらさを感じる人も多くいることだろう。
劇中でも象徴的に描かれているが、社会人になれば人を憎むまで関係を続けることは回避できる可能性がある。担当替えなどの方法で。しかし家族は替えが効かないがゆえに煮詰まっていく。熱し続けたコーヒーのように。

テーマも役者も脚本も良いが、本作にはいくつかの気になる点があり、それについて触れようと思う。

ひとつは新井浩文氏の事件の話。氏は非常にいい役者なのだけれど、あの事件を期にアウトローな役がどうしても素なんじゃないかと思ってしまうこと。これは単純に映画に対してノイズとしてしか働かないし、彼が出演した作品が現在視聴できるということは、被害者感情を鑑みると難しいものがあると思う。
もちろん演者の不祥事で作品が歴史から抹消されることはまた別の問題なのだけれど、このような事件は起こしてほしくなかったし、思うことは多い。

次に芸人起用問題。本作で姉の役を熱演した江上敬子女史はお笑いコンビ、ニッチェの人なのだけれど、監督の「お笑い芸人ではないと撮れない絵を撮りたい」という貧乏根性というかスケベ心というかが露見しやすいと思う。
本作品では小躍りするシーンなど、確かにコミカルな味付けとして機能はしていたけれど、果たしてあそこまでオーバーな演技が必要だったかと思うと疑問が残る。
俳優には支持できないような演技をオーダーできるというのは魅力的なことだと思うけれど、「できる」ということが本当に作品にとって必要かどうかは冷静にジャッジしてほしいと思う。

最後に妹役の筧美和子女史の演技力について。他の演者が熟練の粋に達していることを抜きに、やはり拙い演技だったと言わざるを得ない。本作ではいわゆるバカっぽい役なのだけれど、それと演技が下手なことはイコールではない。逆にロジカルな要素が少ない分、表現の発露としての自然さは求められてしかるべきだったのではと思う。

気になる点を先に列挙したけれど、物語を通して様々な液体が良い舞台装置として機能していたり、さりげない伏線回収が見事だったり良い点も多くある佳作。

オススメです!