Kachi

デイアンドナイトのKachiのレビュー・感想・評価

デイアンドナイト(2019年製作の映画)
3.8
倫理観を揺さぶる一作

道徳と倫理のせめぎ合い。簡単に私の整理を示すと道徳は、社会における規範。疑いなく守ることが善しとされるもの。それに対して倫理は、価値判断の総意が取れておらず、判断する際に行動する側の規範が問われるもの。

今回の主人公である明石は、父の死の真相に迫る過程で良心の呵責。善悪の境界で躊躇いを覚える。
両親に捨てられた行き場のない子供たちが、もっと言えば、社会のセーフティネットの網からもこぼれ落ちてしまった子どもたちが、生きていける場は、犯罪行為によって獲得されたお金によって成立しているという事実。子どもたちに罪はない。目の前の無垢なる訳ありの子どもたちが生きていくための基盤のあまりの脆弱さに、明石は徐々に精神の隘路に入っていく。

父親が自死に至るまでにどのような葛藤を抱いたのか。それを子である明石が追体験しながら、彼は最終的に罪人となった。彼にとっての正義・善は「自分の大切な人を護ること」であった。当然、この倫理観には他者の大切な人を傷つけ、奪うという視点が欠落している。

正しさは単純な数の論理(最大多数の最大幸福)といった功利主義だけでは語り得ない。倫理的な善し悪しは、もっと複雑で、ゆえに即断できるような簡単な問いではないのだ。

だからこそ、私たちは折に触れて、このような作品で登場人物に寄り添って葛藤を追体験しながら、自分なりの倫理観を絶えず更新していく心構えが必要なのだろう。

清原果耶が演じた奈々は、自分の生い立ちの真実を知り、向き合わざるを得なくなった。そしてそれでも人生を前に進めるために東京へと行く決断をした。彼女なりのけじめの付け方なのだろう。

大人たちがしっかりと社会的制裁を受ける中で、彼女に一縷の希望が見出せた。

映像表現は、光と闇が交差するような仕掛けを幾つか使っている。タイトルにある通り、昼と夜、光と闇、善と悪であり、1人の人間の中に両者が同居することを私たちは理解しておかねばならないのだろう。
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