このレビューはネタバレを含みます
超俗の人、熊谷守一。
庭の生命たちをじっと見つめる。
蟻。葉っぱ。軽石。ヤモリ。
いつから生えた?
どっから飛んできた?
毎日のように来客。
隣人の夫婦、画商、看板を書いてもらいたい温泉旅館の主人、いつの間にかいる見ず知らずの人、若い写真家の藤田…。
温泉旅館の主人がやってくるも、
池のめだかを見て忙しいと言う。
しかし、はるばる信州から来たと伝えると書くと言う。
何十時間もかけてきたと思ってのことだった。
「無一物」
と書いて終わる。
モリが座る場所。
切り株、樽、ひっくり返した植木鉢…。
天狗の腰掛け。
「最近気付いたんだけど、蟻ってのは左の二番目の足から歩き出すんだよね」
「よく見て」
文化勲章も「これ以上人が来てくれては困る」と辞退。
外はマンション建設。
「この庭はたくさんの植木や虫が住んでますからね。虫や猫や鳥といった…」
「この庭は主人のすべてやからね」
「下手でいい。上手は先が見えちまいますから。下手も絵のうちです」
「もう一度人生を繰り返すことができるとしたらどうかな?」
「それはやだわ。だって疲れるもん」
「俺は何度でも生きるよ。いまだって、もっと生きたい。生きるのが好きなんだ」
夫婦が学校と呼ぶのが絵を描くこと(創作活動)なのも印象的だった。みんな学校なくていいなって言って。
食卓の囲む音、夫婦で打つ囲碁。
カレーうどんもおいしそうだった。
世界を見つめるまなざし。
自然を愛する人は、
日々の移ろいを愛せる人。
生命の息吹を愛せる人。
身の回りを愛し、愛される人。