怨念大納言

さびしんぼうの怨念大納言のネタバレレビュー・内容・結末

さびしんぼう(1985年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

樹木希林さん追悼4作目。
随分若返ります!
(作成途中で忘れてた…。なんて変なタイミング。)

大林監督の「尾道三部作」三作目。
その名もさびしんぼう!

ノリの古いギャグ連発に引きそうになったものの、男子高校生ののびのび学園生活の微笑ましさが勝りました。

近所の女子高生のピアノ美少女を勝手に「さびしんぼう」と呼び、フィルムのないカメラで覗き見する主人公。
※この「さびしんぼう」は若い頃の冨田靖子。毛量の凄い美少女
この主人公含む悪ガキ三人組の微笑ましいこと。

なけなしのバイト代で肉と野菜を買って、ガスバーナーですき焼きを手作りし、ピンセットで食べる三人。
アホである。

PTA会長へのアピールの為に雨ニモマケズを覚えさせられた、涙ぐましい校長の鸚鵡に、タヌキの金玉の歌を覚えさせる三人。
アホである。
子ネタですが、あの金玉の歌は「まもなくかなたの」という讃美歌とのこと。
大丈夫か日本…。
激怒したPTA会長&校長に呼び打される三馬鹿の三母親のシーンが地味だけど大好き。
あの情けない、バツの悪そうな顔。
似たような事件で度々顔を合わせていることが容易に想像出来ます。

そういう微笑ましい日常の中で、寺のアルバムから「さびしんぼう」という名前の妖精(幽霊?)が現れる。
※このさびしんぼうも冨田靖子

オーバーオールに顔面白塗り、年齢は16歳らしいこの妖精。
正体は一瞬で想像出来るこの微笑ましさ(笑)
ぶっとく分かりやすい堂々たる伏線。
ホントにおおらかな映画です。

そのさびしんぼうですが、特に何かをする訳ではなくて、主人公をただ心配して、見守る。
やった事と言えば、やかましい母親から主人公を庇うことと、主人公の母の友人の昔の秘密を暴露して怒らせるくらい。
この母の親友が樹木希林で、短い出演ながらもインパクトのあるおばちゃんでした!
あの人と友人というだけで、若い時の母の人となりが想像出来るいいキャラクターです。

美しい尾道の風景とショパンの音楽の中で、主人公が成長してゆく。
青春映画として傑出していると思います。

結局の所、白塗りさびしんぼうの正体は16歳の時に母親が演じた劇の登場人物で、演じる母親自身がモデルでもあるのでしょう。

勉強にピアノにと口うるさい母親の過去の青春に、「勉強もピアノも得意な男の子に恋をするが、失恋する」という一頁があった事は微笑ましい。

リアルさびしんぼうこと、橘百合子への恋愛は結局実らず。
この理由って劇中で明かされていないと思うのですが、どうしてなんですかね。
その時の台詞も凄く素敵。憧れの女性のままでいたかったんですかね。


人を恋することは、とっても寂しいからだから私はさびしんぼう。
でも寂しくなんか無い人より、私ずっと幸せよ。


白塗りさびしんぼうの、本作を象徴する名言ですが、もし橘百合子が主人公でない誰かが好きだったり、または、手紙で書いていたように主人公に魅かれながらも何かの事情で別れなければならないのだとしても、やはり彼女自身も「さびしんぼう」という事になります。

ひとがひとを恋うるとき、ひとはだれでもさびしんぼう。

結実しない若い恋愛であっても、その青春の寂しさは財産になってくれると、若者の肩に手を置いてくれるような映画。
怨念大納言

怨念大納言