シンタロー

鍵のシンタローのレビュー・感想・評価

(1959年製作の映画)
3.7
谷崎潤一郎の問題作を、市川崑監督が映画化。京都の高名な美術鑑定士・剣持は、老化と精力減退で、美しい妻・郁子を満足させられないと悩んでいた。郁子は貞淑で従順だが、内心では夫に嫌悪感を抱いていた。剣持は郁子に内緒で大学病院に通い、ホルモン治療を受けており、そこの研修医・木村を、娘・敏子の婿にしようと考えていた。ある夜、木村が訪ねてきて、皆で酒を飲むが、郁子は酔って風呂場で眠ってしまい…。
舞台は京都。岡崎の近くでしょうか?竹林が美しいです。主要な登場人物は、ほぼこの4人と女中・はなですが、それぞれ腹に一物ありなのが、何とも薄気味悪い。妻と木村をわざと接近させて、嫉妬心に興奮を覚える剣持。両親を軽蔑し、自分と違って容姿に優れた母に敵対心を抱く敏子。敏子に対し全く愛情は無く、剣持の地位と権力が目的で夫妻に近づく木村。そして、夫を興奮させて死に導こうと企み、献身的な妻のふりをして木村に"鍵"を渡す郁子。彼らの腹黒さを目の当たりにし、嫌悪する"色盲"のはな。排他的で、本心を表に出さないという、京都人の特性が活かされていて、穏やかではありません。能面みたいな無表情の中に、瞬間的に見せる本音の部分の演出が見事。京マチ子が艶めかし過ぎるだけで、話題になった程わいせつとか、性的な描写は大したことないと思いました。賛否両論ありそうな、皮肉のきいたラストについても、自分はちょっと拍子抜けしてしまいました。演者の芝居は全編素晴らしく、見応え十分でした。
主演の京マチ子。この人程メイクで印象の変わる女優はいないと思うのですが、本作ではとにかく妖艶。京言葉と和装まで色っぽい。溢れ出る欲求不満、チラつかせる夫への嫌悪感、弱者を嘲る芝居が凄い。叶順子のコンプレックスでひねくれ過ぎた性悪演技も強烈。わざとブサイクなメイクにしてる?京との対比がおもしろかったです。中村鴈治郎の変態スケベ爺っぷり、親子丼が鬼畜な仲代達矢も見事でした。当時48歳とは思えない北林谷栄の婆さん芝居が自然過ぎて驚き。ラストは見事に持っていかれました。
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