Masato

天命の城のMasatoのレビュー・感想・評価

天命の城(2017年製作の映画)
4.3

生きてこそ

朝鮮最大の屈辱を映画化。本国で大コケしたとして話題となってしまった歴史大作。たしかに、明らかに劣勢でジリ貧状態の王様たちを地道に描いた映画なので、カタルシスがなく、人が見にくるは思えない。でも、非常に見応えがあり、追い詰められていく中で導き出した答えは、世界中の戦争映画にもある普遍的なもので、生き抜くことへの大切さを力強く教えてくれる映画だった。

同時期に日本では歴史大作「関ヶ原」が公開されたが、どう考えてもこちらの方が圧倒的に面白い。関ヶ原は描きたいことが多すぎる上に、それを詰め込みまくって「見応え」を履き違えた「見て疲れる」だけの映画になっていて、分かりやすくもせず、明らかに見る人を選ぶように作られている酷い映画だった。エリート主義みたいな映画。

本作は、描きたいところをひたすら重厚に、重く、重く描いている。けれども、詰め込みすぎず、軽くならずも、退屈にならない丁度良いスピードで描いている。心情描写を描くキャラが、二人の大臣、鍛冶屋と弟子の4人に絞り、それぞれの立場にある人々を代表して描かれているため、非常に誰がどう思っているのかが分かりやすい。決して大味にはならず、韓国の人たちにしか分からない領域での細々した話もあり、グローバル市場を見越している韓国映画だからこその分かりやすさとリアリズムの両立で素晴らしい。

キム・ユンソクとイ・ビョンホンの会話劇が素晴らしい。王様を前にしての彼らの絶妙な会話の間が重厚感を増し、その一言一言が勝敗の結果を左右するといったスリリングさも感じさせられる凄味。

軍事大臣を除いて、誰もが正義を持って論争を起こす。どちらにも一理あり、決してどちらかが悪いというわけではない。
イ・ビョンホンの「生きてこそ」の精神は、現代にも通ずる考えで多くの人は彼に共感を寄せるであろう。一方、キムユンソクの死を持って戦う精神も、屈しないという意味で、今でこそ違和感はあるものの、当時としては非常に重要である。しかし、キムユンソクに冒頭で罪を与えつつ、身寄りをなくした娘と対話させて、彼の人間性というものに深く切り込んでくことで、現代の私たちにも彼の人となりが分かってくるようになっており、非常にバランスよく描かれていて素晴らしかった。

そして、その結果が民衆や兵士たちにどういった影響を及ぼすのかを鍛冶屋と弟子を通じて描いており、翻弄され、付き従うしかないもどかしさを描いているところも良い。

変化のないシーンだけでは物足りないので、要所要所に戦闘シーンも挟まれており、140分飽きさせない作りにもなっている。様々な建造物やオブジェクトが見事であり、冬ながら乾ききった感じを出しているあたりが、暗くて重くて希望もない世界観に見事合っていた。それと、坂本龍一のエモーショナルなピアノの音が凄まじく心に響く。

パクヘイル、イ・ビョンホン、キムユンソク、コス。マジで韓国俳優半端ねぇ…

ほぼ完璧に近い形で大満足に見れた歴史大作であった。大局を描きすぎて無機質になりがちなところを、エモーショナルに描いたファン・ドンヒョク監督の手腕が見事。「怪しい彼女」と「トガニ」と本作で毛色がそれぞれ違い過ぎるものを3つとも良作にできる彼の振り幅の広さに感嘆。

まあ、俺が先に希望がない鬱映画が大好きだから面白く観れたのだろうが…でも地味なのを理由に躊躇している人は見て欲しい。
Masato

Masato