ぽん

ファントム・スレッドのぽんのネタバレレビュー・内容・結末

ファントム・スレッド(2017年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

のっけからユニバーサルのロゴの画面が無音で「あれ?」っと思う。なるほど、この世界観にあの大仰な音楽は似つかわしくない。物語はもう始まっているのだ。
優美なピアノが奏でるモダンジャズ。身支度をする男。靴下の色がパープル!開巻数分で引き込まれる。すべてが美しく整っていて1秒たりとも見逃したくないと思わせられる画(え)。

白いハウスのらせん階段を上るお針子たちや、高貴なマダムへのドレス引き渡しのシーンの合間に朝食の場面があり、レイノルズ(ダニエル・デイ=ルイス)と若い女の愛が終わったことが示される。このシーンの並列によって、デザイナーとしてのお仕事ぶりも、女との関係も、全てレイノルズという男が確立している世界の中でのルーティンなんだと分かる。
男にとって自分の創造に何らかのインスピレーションを与えてくれるミューズの存在は「常に」必要で、でもその効力は束の間、新鮮味が失われるとお役御免となって追い出される、ということを繰り返していると思われる。

で、そんな男が今度はアルマ(ヴィッキー・クリープス)という田舎娘をミューズとして迎える。出会ってすぐ仕事場に呼んでドレス試着させて採寸してって、結局この男は「自分のドレスが引き立つ理想的なトルソー」たる女性を求めてるに過ぎない。
ところが、このアルマちゃんは黙ってトルソー役に甘んじるタマじゃなかった。「私は私のやり方で彼を愛します!」ってグイグイ行っちゃう。レイノルズみたいに何でも自分の思う通りにしないと気がすまない人がサプライズなんて喜ぶ訳ないのにムリヤリ決行したりして。
そんなんでだんだんレイノルズが引き気味になってきたところで・・・例の隠し玉登場となる。

とびきりの美人でもなくスタイルがイイ訳でもない(レイノルズの好みには合ってたのだけど)アルマ。
自分に自信のなかった彼女が、一流デザイナーたる男に見出された事で「彼に求められる私」という一点においてのみ自分の存在意義を確認できたのだ。
ぶっちゃけこれって代理ミュンヒハウゼン症候群でしょう。レイノルズを病気にして弱らせ看護することで「彼に求められる私」を続けられる。マッチポンプな自己愛の満たし方。

最後のレイノルズはもう殆ど自殺じゃないかと。すべて分かっているというあの顔!デザイナーとしての栄光の凋落を予感した彼は、ダークサイドに堕ちたアルマの側に自分も身を投じたのだと思う。
ぽん

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