にしやん

ベン・イズ・バックのにしやんのレビュー・感想・評価

ベン・イズ・バック(2018年製作の映画)
3.8
アメリカで手術やケガの鎮痛剤として普通に処方される合成オピオイド薬の中毒問題をあぶり出す社会派映画やな。実はアメリカではこの問題が大きな社会問題になってるわ。現在この合成オピオイド薬の過剰摂取がアメリカ人の50歳以下における死因の、何と一位になってるらしいな。この問題の凄まじさが分かるやろ。
同じく薬物中毒問題を扱った映画「ビューティフル・ボーイ」と比較されたりしてんねんけど、中身似てるようでだいぶちゃうと思たわ。「ビューティフル・ボーイ」のほうは軽い気持ちで始めた大麻からどんどんエスカレートして重度の麻薬中毒になってまう話やねんけど、こっちのほうは普通の一般人処方されるケガとか手術とかの鎮痛剤が原因で中毒患者になってまうっちゅう恐ろしい話や。こんなん本人の意志とか全く関係あれへん、いわば医師の医療行為の副作用やろ。不可抗力もええとこやんか。日本の昔の薬害エイズと何も変われへん。物凄い憤り感じるわ。誰でも薬物中毒なるかもしれんねんで。ほんまありえへんやろ。
「ビューティフル・ボーイ」では、クスリ止めたと思ても止められへんの繰り返しについての実話やったんに対して、こっちは完全にフィクションや。話としても中々凝った作りになっとって、時間軸に沿って24時間以内でストーリーが展開する緊迫感の高いもんになってるわ。その辺りも映画としての面白さがあったわ。先の展開が読みくい作りになってたんで、リアリティの問題は別にしても、正直ハラハラドキドキしてもたわ。
それにしたかてジュリアロバーツの演技はほんまキレがあるわ。流石やで。全く衰えてへん。最近の「ワンダー 君は太陽」もそうやけど、オカン役冴えまくってんな。益々良うなっとうわ。
この映画のええとこは薬物患者やその家族かわいそうとか頑張ってるとかそういう単なるきれいごとではなく、医者、薬局、保険制度の問題点をちゃんと突いてるとこ。それにもっと重要なんは、薬物中毒被害者を被害者のままにさせてないとこやろな。被害者が被害者であるっちゅう現実と同時に加害者にもなってて新しい被害者を産み続けてるっちゅう恐ろしい現実についてもちゃんと浮き彫りにしてるわ。それに親の問題もちゃんと押さえてるで。親子の関係性についても親から子供への美しい愛っちゅうことでは決して単純に美化してへんな。息子のクスリへの依存は相当やけど、母の息子への依存も大概やぞ。後半の母親の行動はどう見ても狂ってるしな。親にも相当問題あんのちゃうのもちゃんと指摘してるとこはエラいわ。この辺のいくつかの点については、はつきりいうて「ビューティフル・ボーイ」にはあれへんな。
ラストやけどな。文字通りタイトル通りやねんけど、残酷なんは百も承知で、果たしてこれでほんまに正しかったんかな?そんな愛することとか信じるとかそんなきれい事だけで片付く問題なんやろか?薬物問題ってそんなきれいごとちゃうやろ。深刻過ぎて絶句するしかあれへん。わしは、さらなる悲劇を作ることにならへんこただけを只々祈るだけやわ。
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