にしやん

シークレット・スーパースターのにしやんのレビュー・感想・評価

5.0
インド最大の音楽賞のステージで歌うことを夢見る14歳の少女が、ちょっと落ち目の大物音楽プロデューサーと出会い、夢に向かって突き進んでいく姿を描くサクセスストーリーやな。本作は「ダンガル きっと、つよくなる」「バーフバリ 王の凱旋」に続く、インド映画で歴代世界興収第3位を記録した大ヒット作や。プロットは至って簡単。歌が好きな少女がYouTube(?)に自分の歌っている姿をアップして、それがネットでもリアルでも大きな話題を呼び、スターになるという夢を叶えていくっちゅう話や。プロデューサーは「ダンガル きっと、つよくなる」で主演の父親役のアーミル・カーン。本作でも落ち目の大物プロデューサー役やってるわ。主演の女の子役は「ダンガル きっと、つよくなる」で長女の子役のザイラー・ワシーム。「ダンガル」コンビ再来やな。それにもう一人重要な役割を演じる少女の母親役が、日本でも大きな感動を呼んだ「バジュランギおじさんと、小さな迷子」の母親役やったメヘル・ヴィジュや。この面子やったら、そりゃ期待膨らむわな。

ストーリーはベタというかベタベタや。意外性とか新規性はあれへんし、衝撃のラストとかもある訳ないわ。映画の冒頭からすでに結末がほぼ見えてまうようなもんにも関わらず、おもろすぎるで。最後には待ってましたの大感動が待ってるやつや。ベタでも王道でも、おもろいもんはおもろいっていう典型的な作品やな。凝った設定やとか捻った結末なんかはこの映画には要らんわ。そんなもん無うても感動するもんは感動すんねん。

この映画の最大のテーマはインドの「女性差別」の問題や。プロデューサーのアーミル・カーンはインドきっての社会派の映画人で、深刻な社会問題をエンターテインメント性の高い感動作として描くんが天才的やと思う。日本にはこの手の監督がほんまに少ないわ。前作の「ダンガル」ではインドの女性に対する既成概念を打ち破るということを大きなテーマにしてたんやけど、本作ではそれを大きく推し進めて、更にもう一歩踏み込んでるんとちゃうかな。 わしがこの映画でいっちゃん感じたことは、今回の主人公の女の子は、「女性差別」と積極的に戦う姿勢をはっきりと見せてるとこや。 もちろん正面きって戦うということではなく、歌手になりたいという自分の夢を「女性差別」と戦うための手段にしとるし、武器にもしとる。 主人公はまだまだ小さい子供やけど、インドの因習や偏見と戦う女性の映画になってるわな。

歌手になりたいという夢は意外とスムーズに進んでいくわ。YouTube(?)に歌をアップしたら大きな話題になって大物プロデューサーの目に留まるやなんてちょっと出来すぎやない?ってと思うかもしれへんけど、これはこれでええんとちゃうかな。この映画の中での夢は社会の因習や偏見と戦う武器の象徴で、戦うことでしか実現はせえへん訳やからな。作品のメッセージは単純やけどその分力強く、素直に感動できる作品やわ。

それともひとつ感じたんは、映画の中で描かれてる四つの男性像やな。一つ目は主人公のオヤジ。これはもうクズ以外の何者でもない。正に女の敵。話にならんわ。二つ目はアーミル・カーン演じる音楽プロデューサーや。知らず知らずのうちに女性を差別したりセクハラしてる類や。これは相当多いんとちゃう?恥ずかしながら日本の男の殆どがこれなんとちゃうかな。それと、アーミル・カーンがエラいんはインド映画界の男性本位、男性視点の映画作りについてもちゃんと批判してるとこやな。エンドクレジットのアーミル・カーンには脱帽や。自分の体を張って思いっきりインド映画界を皮肉ってんぞ。それもおもしろ、可笑しく。このオッサンは分かってんな。只者ではないわ。

三つ目は主人公の彼氏(?)や。これは、差別と戦う女性にとって男性はどうあるべきかという理想やな。この彼氏は主人公の夢を実現するための手助けをほんまに惜しまへんねん。「塀」のシーンは、女性が社会の因習や偏見の壁をどないして乗り越えるんかっちゅうことの象徴に見えて、「これやな。お前こそほんまの男や」ってジーンときたわ。四つ目は主人公の弟。こいつも凄い。差別に傷つく女性に対してどうあるべきかを象徴してるわ。「PC」のシーン、泣いたで。彼氏(?)もエライけど、あんたも相当エライ。男性社会の壁に阻まれて困ってる女性に対して、男性はこないせんといかんっちゅう二つの手本をこの映画は提示しとうわな。

もうほんま最初から最後まで徹底してのベタベタのベタ演出の連続なんやけど、最後には涙なしでは観てられへん傑作やったわ。「シークレット・スーパースター」のこのタイトルかてめっちゃ深いねん。マジで深々やわ。わしほんまこういうベタなんに弱いなとあらためて思たわ。

同じくインドのムンバイが舞台の「あなたの名前を呼べたなら」のレビューでも書いたけど、この日本の女性の地位は、なんとインドよりも低いっちゅう話や。日本の男性の皆さんほんまどない思う?恥ずかしいと思わへんか?この映画は特に日本の男性に一人でも多く観てほしいわ。当然わしかて彼氏君とか弟君みたいにならなアカンし、この国かてそういう男をもっともっと増やしていかなアカンとつくづく思うわ。まあ、せやけど、これかてオッサンの意見やからな。男目線かもしれんわ。女性のほうからはまだまだ分かってへんって言われるかもな。ほんまに。
にしやん

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