ノラネコの呑んで観るシネマ

ブレッドウィナー/生きのびるためにのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

4.7
タリバン支配下のアフガニスタンを舞台とした、異色のアニメーション映画。
教師だった父が"イスラムの敵"として突然連行され、一家に残されたのは女と赤ん坊だけ。
男性家族の許可なしには外出さえ禁じられた異常な社会では、女だけの家は存在し得ない。
タイトルは「働き手」のこと。
主人公の少女は封じられた家族を養うため、そして父を助け出すため、少年の格好をして街に働きに出る。
「ブレンダンとケルズの秘密」「ソング・オブ・ザ・シー」で、コ・ディレクターなどを務めたノラ・トゥーミーの長編監督デビュー作。
丸を基調としたキャラクターデザイン、手描きと切り紙風アニメーションが混在するテリング、現実世界の物語と主人公が語るむかし話が徐々にシンクロしてゆく筋立てなど、カートゥーン・サルーン作品らしい味わい。
師匠トム・ムーアも、プロデュースで参加している。
むかし話の主人公が直面する恐怖が、迫り来る戦争によって現実世界で顕在化する。
印象的なのは、少女が文盲のタリバン兵に彼の大切な手紙を読んであげるエピソード。
タリバンの多くは、コーランを読んだこともない飢えたパシュトゥーンの子というルポ記事を思い出した。
むかし話を現実の戦争に落とし込む手法は、ちょっと「パンズラビリンス」を連想したが、それでも極限状態下で僅かな希望を感じさせる。
地味な題材からも日本公開は危なそうだが、これは是非多くの人に観てもらいたい力作。
ブログ記事:
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