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ゲティ家の身代金のsomaddesignのレビュー・感想・評価

ゲティ家の身代金(2017年製作の映画)
5.0
巨大な敵と対峙してたつもりが別の巨悪も浮かび出す結果に。
映画が現実に侵食したみたいだ。

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73年に実際に起きた誘拐事件をもとに、巨匠リドリー・スコットが映画化。
石油王ジャン・ポール・ゲティの17歳の孫ポールがローマで誘拐され、母親ゲイルのもとに、1700万ドルという巨額の身代金を要求する電話がかかってくる。しかし、希代の富豪であると同時にドケチとしても知られたゲティは、身代金の支払いを拒否。ゲイルは息子を救うため、誘拐犯たちとも世界一の大富豪である義父ゲティとも対峙することになる。

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重い&長い。

リドリー・スコットはいつも「話の通じない相手」の映画ばかり撮っている。自分たちとは全く違うルールや価値観で行動する存在に相対した時に生まれる、好奇心や恐怖心を物語の源流にすることが多いと思う。
同様にままならない男社会に強く戦いを挑む女性を描くことも多いような。

実在の人物・実際の事件を基にしただけあって、クリストファー・プラマー演じるJPゲティの狂気じみた五欲さとドケチ守銭奴っぷりを、小さなエピソードを積み重ねて丁寧に肉付けしてくる。
重厚かつかったるい。
誘拐までのケレン味の良さからすると序中盤の緩急が激しくて、ついてくの大変💦

「エイリアン」のリプリーとはまた違った戦う女性像。
最初は裕福な家の育ちで世間知らずだった女性が、誘拐犯と守銭奴の義父、無慈悲なマスコミetc……様々な敵との戦いを通じて強く成長し、真に大切な物を取捨選択していく物語に見えた。他方で敵対してた存在の哀れな最期が……。

実際の事件・人物を調べるうち、誘拐されたポール・ゲティの後半生を知ってしまう。なんかせっかく助かったのに、なんだかなあ…といった気持ち。


当初JPゲティを演じていたケビン・スペイシーが昨年のセクハラ問題で事実上の追放となってしまったので、急遽クリストファー・プラマーが代役として白羽の矢が立てられたのは有名な話(リドリー・スコットがクリストファー・プラマーのおでこに「ロビンフッド」みたく矢をビシーーーッと命中させる絵面を想像すると愉快)
急な代役とは思えない見事に尽きる名演技は流石っちゅうーか、何度もみたぞこのキャラクター。「インサイドマン」とか。
名演技もさることながら、急な再撮影に際してキャスト陣はタダ同然のギャラで協力してくれたそうだけど、のちにマーク・ウォールバーグが150万ドルのギャラを受け取っていたことが発覚。ミシェル・ウィリアムズと1000倍以上の賃金格差が発覚し、Time's Up運動(男女間の不平等の是正を訴える運動)の盛り上がりもあってウォールバーグ大炎上。結局ミシェル・ウィリアムズ名義で150万ドルをTime's Up運動に募金することで決着。結果的に、映画の中と外で封建的で格差構造な男社会と戦う女性の話になってしまった。


44本目
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