トンボのメガネ

銀魂2 掟は破るためにこそあるのトンボのメガネのレビュー・感想・評価

3.6
銀魂なら気楽に鑑賞出来るかと思いきや… 伊東鴨太郎を演じる三浦春馬を見るのは、まだちょっとキツかった。

かつての人気アニメ実写化のトラウマを乗り越えて参戦しただけのことはあり、1人だけ別格の芝居をしていた。渾身の演技に不意を突かれ、号泣してしまった。
彼の演技だけならスコア5を付けたいところだが… 総合的な評価となるとマイナス部分もあるのでスコアを下げました。

進撃の巨人の時にも感じたが、最大の問題は仕上げの編集にあると感じた。原作のギャグシーンを活かすには間が大事で、本作に感じた違和感は間のズレのような気がする。

セリフのスピードや動きのタイミングなど0コンマ1秒の差かもしれないが… 万屋の3人が土方を袋叩きにするシーンがあるのだが、あれはコメディであっても殺意を持ってガチで蹴りを入れなきゃ面白くならない。フワフワと宙を掠るような蹴りを適当に入れているカットをアップで見せられると…うーん、ちょっと違うんだよな〜となる。

後、小栗と窪田の格闘シーンが異様に長く感じた。なぜあんなにスローモーションの羅列にしたのだろうか?
主演なのに完全に脇に回ってしまった小栗旬の見せ場を強調する必要があったのかもしれないが、逆効果に見えたのは私だけだろうか?

監督自身が前面に出て役者達と共に宣伝活動を行なっている姿を見て、きっとスタッフを大事にするとてもいい監督なのだろうと思う。
皆の期待に応えるように役者の見せ場を作り、原作ファンの為にアニメの再現度を高めつつ、監督のカラーもしっかり入れる豪華な全部盛りだ。
しかし、欲張り過ぎると互いを殺し合ってしまう。

結果、映画全体の軸が少しずつブレてしまっている。本作は充分に評価はされてはいるが、三浦春馬の功績もあって、もっと上を目指すことが可能だった作品なだけに少し惜しい気がした。

他のレビューでも書かれているが、人気の原作を使うなら原作へのリスペクトを感じたい。改変を加えても根っこに原作への深い愛があればファンは文句を言わないはずで…それは観客をリスペクトすることとイコールだと思うから。

最近見た中ではSUNNYにそれを感じた。
監督が韓国版の作品をリスペクトしていることがビシビシ伝わってきた。
だから、思いっきり設定を変えても本筋がブレず、とても良かった。
そう言えばSUNNYにも三浦春馬は出てたっけ…

人気アニメと人気俳優の組み合わせだけで安定のヒットにはなるが、クリエイターや役者達が本当に欲しい評価には繋がっていない気がしてならない。
本当に作りたい物の為に、不本意でも稼げるコンテンツを扱う話はよくあることだが、このスタイルこそが色んな才能を潰していく結果に繋がっていることに企画をだす代理店は勿論だが、観客側の我々もそろそろ気付かないといけない。

文句を言うだけなら簡単だが、観る側も受け身ではなく、心眼を持って一緒にエンタメ業界を育てる気概がないと、いつまで経っても日本映画の質は上がらない。

エンタメを心から愛している作り手達が、本当に作りたいと思える作品にちゃんとお金が回るようになるには、観客の成長が不可避なのだと思う。
三浦春馬を失って、そのことを強く感じた。

舞台をやる為にテレビの仕事をしている俳優は少なくないが、彼の舞台があそこまで高いクオリティだったとは全く知らず、正直驚愕している。知名度の高い俳優なのに、そのことに気付けていなかったことがショックだった。

伊東鴨太郎の悲痛な叫びがまるで三浦春馬の叫びのように聞こえてきて、日本のメディアを通じて注目されているエンタメの在り方について深く考えさせられた。

三浦春馬の伊東鴨太郎を見ていてなんとなく上野樹里を思い出した。二人は役者として少し似ている気がする。 上野樹里はコメディの演技も抜群だが、何気に悲しみを表現させるとヤバイ威力を持っている。
脚本がイマイチな作品に置いても、彼女が悲しみを伴う演技に入ると、ついこちらも貰い泣きをしてしまうことが何度もあった。

三浦春馬にも同じ印象がある。
彼の場合は強烈なワンシーンがあると言うより、役への浸透が凄すぎて欠点のある作品にも奇跡的な息吹を与える時がある。
その奇跡のお陰で、自分にとって銀魂2は心に触れる映画の一つとなった。

以前、グッドドクターの上野樹里の強烈なワンシーンを見た三浦春馬が、Twitterでその演技を感嘆し、また一緒に演じたいとラブコールを送っていた。
そのコメントを偶然見た時、心の底から嬉しくて楽しみに感じたことを思い出す。
日本の狭過ぎる世界では宝の持ち腐れと思える数少ない俳優だった。
もっとあなたの芝居が見たかったよ。