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千と千尋の神隠しのnetfilmsのレビュー・感想・評価

千と千尋の神隠し(2001年製作の映画)
4.2
 3人乗りの小さな車は、なだらかな道のりをガタガタ揺られながら、ゆっくりと走る。後部座席では、10歳の少女・千尋(ちひろ)が、花の間から出て来たメッセージ・カードをしげしげと眺めていた。東京から空気のきれいな片田舎へ。景色は次第に緑に色を変える。だが道無き道を走っていた車はどこかで迷い、別の峠道へとうっかり迷い込む。森の中の奇妙なトンネルと祠のようなもの。両親は躊躇なくそのトンネルを進むが、それはこちらの世界とあちらの世界との分岐点に位置する不思議な場所だった。八百万の神々が住む世界に人間は来てはならない。無人の屋台街、千尋の両親は匂いに釣られるように、路地裏に佇む飲食店の食事に手を付ける。だが神々に供える食物を食べた両親は、罰として豚にされてしまう。パニックになった千尋も前後不覚になり、帰り道を失って消滅しそうになるが、この世界に住む少年ハクに助けられる。

 両親と自身の名前を奪還する旅は、瀕死の重傷を負ったハクを助けることと併せ、幼い千尋に抱え込めないような3つのミッションを与える。まだ年端も行かない1人娘はどことなく頼りなさげだが、やがて自身の使命に気付き、秩序なき世界と対峙する。湯婆婆(ゆばーば)と坊(ぼう)の少し歪んだ鏡像のような母子関係、メンターとなる釜爺(かまじい)は千尋の行動を遠くから見つめている。だが何と言っても印象的なのは、カオナシの個性的なキャラクターだろう。言葉は話せず、「ア」または「エ」のような言葉にもならない言葉を繰り出す黒い影のような物体は、金をばら撒きながら住民たちを魅了するが、幼い千尋はその欲望に手を出さない。幻想的な油屋の造形は、遊廓のような俗悪さを醸し出す。この建築造形はクエンティン・タランティーノの『キル・ビル』の日本家屋のモチーフともなった。そこに幽閉された千尋とハクは、囚われた籠の鳥だが、やがて少女の勇気がこの世界の秩序を少しだけ変える。
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