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スパイダーマン:スパイダーバースのdm10foreverのレビュー・感想・評価

4.8
【辛いのは君だけじゃない】

最初に。
ようやくレビューを書けるくらい落ち着いてきました。
先日は一言コメントに「いいね」を沢山いただきましてありがとうございました。
が、そんなこんなでの「再投稿」です(笑)

まず、やっぱり一言。
「最高かよ!」
これは外せない(笑)

≪何故、今アニメでスパイダーマンなんだ?夏には実写版が公開されるのに?≫
答えは単純。これじゃなきゃいけなかったから。
映像に関しては現代の技術レベルの高さで十分推し量ることが出来るとして、何よりセンスがいい。実写に近づけることを目的とするのではなく、あえて「アニメーション」としての立ち位置を崩さずに、それでいて絵的にも動き的にもストーリー的にも破綻させずに、ラストまでノンストップで駆け抜けた。もうこれは脱帽です。
これを「シリーズ」と呼ぶかどうかはわかりませんが、「スパイダーマン作品」とカテゴライズするならば「最高傑作」に推しても良いとすら思えます。

それは単に先に書いた映像センスの良さや音楽の良さだけではありません。
ストーリーがポップでありスタイリッシュでありながらも、実はしっかりとスパイダーマンの本質を捉えていて、主人公に常に付きまとう悩み(葛藤)に答えを返しているんですね。それをスピンオフ的な作品としてではなく、メインストリートのど真ん中をぶっ飛ばしながらやってのけたんです。

従来、私たちが知るスパイダーマンは「親愛なる隣人」として親しまれてきたキャラクター。それは同じマーベルの中でも若干異質な立ち位置。つまり「完全無欠なヒーロー」と「一般市民」の間にある絶対的な距離感ではなく、「隣にいてくれるヒーロー」なのだ。
そしてそれは「いつもそばにいてくれる」ことを意味している。
しかし、スパイダーマンは同時に「一般人」として生きる自分と「スパイダーマン」として生きる自分の狭間で葛藤する。本当の自分(メインはピーターパーカーかな)は何者なのか?そして直面するヒーローとしての限界。彼の世界には他のヒーローは存在しない。あくまでも偶然蜘蛛に噛まれて特殊能力を持ってしまった「イレギュラーな存在」に過ぎないから。
だから彼は悩む。「誰も僕の苦しみなんて理解できない」と。
今作でスパイダーマンが大集合したのはあくまでも結果論。
キングピンの無謀な計画が引き起こしたユニバース(次元)の歪みによって「偶然」現代のブルックリンに舞い降りてしまった「様々な次元のスパイダーマン達」なのだ。
そして彼らはそれぞれのユニバースで一人で戦っていた、そう、ピーターと同じように。
そして同じように様々な葛藤を抱えながら戦っていたのだ。

「決して全てを救えるわけじゃないんだ」

誰も僕の苦しみなんて理解できない!そう叫ぶマイルスにスパイダー・ポークが優しく諭す。
《皆同じなんだ。皆大切なものを守れなかった苦しみを抱いて、それでも前を向いて立ち上がってきたんだ》

マイルスの次元ではピーターパーカーという絶対的なヒーローがいた。しかし、彼はマイルスの目の前で非業の死を遂げる。(もしかしたら、この後生き返って、何なら覚醒してパワーアップして・・・)なんて淡い期待も持ちそうなもんだけど、彼は死ぬ。
しかしそれは終わりではなく、次の世代へと脈々と続くスパイダーマンの系譜の新たな始まりの瞬間であった。
だからピーターは死の直前にマイルスの能力を知った上で彼に世界を託す。
やり方も心構えも一切教えず。それは自分の勇気で乗り越えることだと。

マーベル作品でありながらも、オープニングの「SONY」の文字に心が躍ったのは、ひょっとしたらそこだったのかもしれない。
このユニバースでは脈々と「親愛なる隣人」がいつの時代もどこの次元にもいてくれる。
それは「アベンジャーズの一員」としてではなく。一人の心優しいヒーローとして。
描き方を変えることで、今までと違った視点で描けるという事は今までも良くありましたし、もしかしたらコミックで描きたかった「繊細な部分」も表現できてるんじゃないかな。
そういった意味では、レゴバットマンなんかも思いっきり視点を変えた結果、実はバットマンのダークな本質をさらっとカミングアウトしちゃうような作品に仕上がっていたしね。

パンフレットに書かれていた「2人の父親、2つの世界の間で生きるマイルス」という表現は的確だと思った。それは単純に表向きの表現ではなくマイルスの内面やスパイダーマン達が置かれている状況などが、正にその通りだと。

ストーリーとしてほぼ満点に近い感覚を受けた自分としては、既に映像表現や音楽には圧倒されまくりだったので、批判のしようがない。
唯一。ツッコミどころがあるとすれば・・・。
ラスト。超絶カッコいいエンドロールのアニメーションも終わった後、そろそろ席を立ち始める人もぱらぱらと出始める中で流れる「あの曲」。
あれって「デッドプール」意識してない?いやしてるでしょ。
個人的には、いつか同じ画面でこの二人を見てみたい。実は他のマーベルキャラの中でも一番近いんじゃないかな?この二人。きっと気が合うと思うよ。

あ~まだまだ言い足りない。
グエン・ステイシーは今作が一番好き。イケ女でありながら嫌味じゃない。本当にいい子。あと日本の萌えアニメやアメコミ、カトゥーンまで出てきたのは正にダイバーシティだよね。主人公を黒人少年にしたのは時代だよっていう一言で解決かもしれないけど、ちょっと寄せすぎなのかなと勘ぐってしまいつつも、それもまたスパイダーマンならではなのかもしれないと思った。
以前スタン・リーは「スパイダーマンを全身タイツのキャラクターにして正解だった。そのおかげで彼は人種や性別を問わないキャラクターになれたんだから」というような事を言っていました。
時代の先を見通す目というのはこういうことを言うのかもしれませんね。

「ありがとう。一人じゃないと教えてくれて」

何より、スタン・リーが傍にいてくれることが嬉しかった。今までありがとう。そしてこれからもよろしく。
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