真田ピロシキ

響 -HIBIKI-の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

響 -HIBIKI-(2018年製作の映画)
4.3
小説家映画の体裁を取ったアクション映画。右の棚には面白い小説を。左にはつまらないのを。ある小説をどっちに入れるかで取り合いを続ける響とリカ。この時点で譲らないエゴのぶつかり合いが見て取れる。映画的には中ボスくらいでしかない田中も最高だ。「俺、客の前でヘラヘラすんの嫌なんだよね。ずっと続ける仕事でもないし」「お前28歳にもなって芽が出ない小説家気取りだろ!」「へっ(電話に出る)」世間的には間違っている。でも正しい。そのイタさを貫ける自分は正しい。自分を認められない人間は他人を認められもしない。響の高すぎるエゴに屈した田中がその後色眼鏡で響を語る人達に「読んでから言えよ」と言うのは強敵と書いてともと呼ぶ劇画マインド。響は田中にもリカにも勝って文学界の頂点へと昇りつめて行くのだが結果は別として誰かに勝つ事が目的じゃないのが敵を出さなくては存続できないバトル漫画文法とは一線を画している。映画的にはラスボスと言える山本が芥川賞=世間の評価に屈した挙句に心が折れてて、その心に自分の中に評価軸を持った響の言葉が打ち付ける。強いってのはこういう事だ。

最初にアクション映画と書いたように非常に暴力的でもある。ヤンキー先輩の指をへし折る事から始まり、友達のリカを侮辱する過去の天才作家鬼島に蹴りをかまし、田中に椅子を叩きつけ、担当編集者で友達のふみを侮辱した記者にもマイクを投げつけてからキックのコンボ!やられた奴らはこっちの方が立場は有利だから何もできやしないだろうとタカを括ってやがる。そういう手合いにナメんな、マジでやってる人間ナメんじゃねえと激情をぶっ放せる響さんは従順さばかりを求める世の中に響く。

響を演じた平手友梨奈は欅坂の人なんですね。モンスター的に強固な自我を振りまきながらそうある必要がない時はアイドルらしい可愛さを見せてる姿は良かったのですが搾取的な芸能界の代表である秋元康の影を見るとやや映画への評価を下げてしまう。リカを演じるのはアヤカ・ウィルソン。中島哲也の映画に出てた子がこんなに大きくなったのかと感慨深い。その父親役である年取った吉田栄作の方が実はもっと。実年齢以上に歳取ってるように見えたのは老成した国民的小説家の演出なのでしょうか。モデルにしたと思しき村上春樹だってこんな老けたイメージはないんだけどなあ。