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ラーメン食いてぇ!のsomaddesignのレビュー・感想・評価

ラーメン食いてぇ!(2018年製作の映画)
5.0
醤油ラーメン食いてえ!

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最愛の人でありラーメン作りのベストパートナーだった妻を亡くした清蘭店主の紅。先立たれたショックからか味が落ちたと評判になり、客足は遠のくばかり。ラーメン作りへの情熱も費え、店を畳み自らも命を絶つ決意をしていた。その頃、紅の孫で女子高生の茉莉絵もまた、心ない同級生の噂がもとで自殺を考えていた。一方その頃、テレビの取材ロケ中に遭難しキルギスの高原で倒れ伏した料理評論家の赤星。死を覚悟した瞬間、思わず絶叫したのが「清蘭のラーメン食いてえ!!」のひと言だった。一杯のラーメンの縁によって結びつけられた3人の再生の物語。

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原作読了済。

福田里香先生の提唱されたフード理論に感化されたせいもあるけど、美味いマズい以上に食べ物にロマンチックな物を感じてしまう。美味しいものを作ったり食べたり、食卓を囲む行為に何か本然的なモノを見出したくなるというか。

冒頭の赤星の絶叫は、当時の自分が仕事で深夜残業or徹夜続きの日々に重なってしまうのです。朝帰りのラーメンを楽しみに、疲れた体に鞭打って踏ん張ったのを思い出します。
「始発で築地行ってラーメン食って帰ろう……」
普段は美味しくないハズなのに、クタクタの体で市場のオッサンらに混じって朝靄と湯気を一緒にすするように食うと、何故だか美味かったなあ。


失われたラーメンの再生を師弟二人の再生のメタファーにしつつも、物語の目的にしてるのもいいし、孫を救いたい一心で教えてたハズなのに、誰よりも師匠自身もまた救われる構図は名作「ベストキッド」そのもの。
赤星の別視点が加わることで、単なるグルメ漫画じゃなくて食を通じたロマンチックな文化人類学みたくなるのも大仰で好き。

劇的な序盤に比べて、中盤〜終盤に興味を持続させるような事件が乏しくて、起伏に欠ける物語なのは原作もそうだからご愛嬌。むしろ劇中石橋蓮司の言う「引き算の美学」を体現するように、シンプルに若い二人女優さんの瑞々しい魅力を引き出すことに注力して、映画として一番伝えたい完成形ににじり寄ろうとしてて好感が持てました。

キルギスの大草原の絵力が物凄くて、これだけでも大画面で見た価値あったし、清蘭のモデルになった群馬県の清華軒でそのままロケしてて、色々と虚実入り混じってる空気感も面白かった。調べたら、原作の林明輝さんのご実家が清華軒なんですってね。お店と住居が一体化してて、昔懐かしい町中華の名店な佇まいがリアルでした。


監督のTwitterに上げられた撮影裏話の数々。
キルギスロケで先発隊に遅れて到着した片桐仁ら後発隊が、空港で荷物丸々紛失されて手ぶらで現地入りするハメになった……、山羊と赤星が触れ合うシーンを撮ろうとして前日山羊を用意してたら、翌朝野生の狼に山羊が食われてしまって大変困った……、ロケに医者を同行してもらうも、スタッフが続々と倒れる……、ロケハン道中に本物の遊牧民と出会って、心からのもてなしを受け次々とヨーグルト・パン・バター・馬乳酒etc供してもらったもんだから、ずっと満腹状態だった……
映画本編とは別に、こっちの珍道中記のが見てみたかったような💦

24本目
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