Stella

万引き家族のStellaのネタバレレビュー・内容・結末

万引き家族(2018年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ニュースになった親の年金を不正受給していた家族が逮捕された事件から作られたというこの作品。

年金不正受給、万引き以外にも日本の社会問題がいろいろ提起されていました。

虐待されていた少女を万引き家族がこっそり引き取り、(それは後に誘拐となる)殺人、死体遺棄、育児放棄、風俗、脅し、不倫の末の略奪愛、低所得労働者の現実。日本人がどういう気持ちでこれを見たのか。見たことのない日本の闇の部分を欧米の富裕層たちはどんな気持ちで見たのか。

私はこういった日常生活を切り取ったタイプの映画が好きだ。そしてちょっと影がある方が好物。そして、鑑賞後の余韻。是枝監督の作品は結構好みでよく見ます。一つ前に見たのは、三度目の殺人かな。

印象的だったセリフとシーンを一部ご紹介します。

“叩かれるのは りんが悪いからじゃ無いんだよ。好きだから叩くんだよ なんていうのは嘘なの。好きだったらね、こうやってやる”と抱きしめる。全ての虐待児とDVをされたことのある人に言ってあげたい言葉ですね。

泣ける。


駄菓子屋さんの御主人が、ずっと祥太が万引きしていたことを知ってて、見逃していたことがわかるある日のシーン、
“妹にはさせんなよ” と2人分の駄菓子をくれる。優しさでやっつけられた少年、祥太。その後、駄菓子屋は閉まる。ご主人が亡くなったようだ。お店が閉まったのは、万引きしていたせいかもしれないと少年は子供心に思ったかもしれない。そして、祥太は映画の中でも出てくるレオレオニのスイミーになる。スイミーは赤い魚のみんなと違って、黒い魚。小さな魚がみんなで大きな魚に模倣する時、僕が魚の目の部分になる。そして、大きな魚に立ち向かう。
この描写は祥太が目になり、大きな闇に立ち向かっていく姿がリンクする。


信代が捕まった後の事情聴取で、"誰かが捨てたものを拾ったんです。捨てた人は他にいるんじゃないですか?"

このセリフも忘れられない。虐待をしていた親は寒空の下、幼い子どもを外に放置していて、そこを通りかかった治と祥太が連れ帰った。初枝たちと治・信代に血の繋がりは無いが、初枝も元旦那に捨てられている。年金目当てかもしれないが、2人が拾っている。祥太もパチンコ屋での車の中で拾ったの。と言っている。多分、パチンコ店で車上荒らしをしている時に車の中に置き去りにされていたのをそのまま連れ去った、と思われる。
節々に、そう言う事なんだねと腑に落ちるポイントが散りばめられている作品だった。


少年につけた祥太と言う名は、リリーフランキー扮する治の本名だった。彼は祥太に自分を投影していたのかな。

名前といえばもう一つ!
信代の妹分、亜紀の源氏名は実の妹さやか。意地が悪いねーというおばあちゃん(初枝)に対して、亜紀は誰に似たのかな?と返す。実は亜紀は、初枝の亡くなった元旦那と新しい奥さんの孫である。両親は健在だが、なぜか初枝たちと暮らしている。つまりこの言葉から、初枝の旦那を奪った自分の祖母に似たのかもねと皮肉を言っている。初枝は、亜紀の両親に亜紀と暮らしていることは伏せているが、彼らなりの謝罪なのか、月命日ごとに3万円をもらっている。それも3万じゃ不満げ。



子どもには、母親が必要なんですよ。
産まなきゃなれないでしょ?


子ども2人はあなたの事何て呼んでました?
という警察の意地悪な質問の連発に、信代は泣くが、演者の安藤さくらの泣き方がリアルですね。
こうやって誰かと対峙して涙が出てしまう時、みんな映画の中のように綺麗な一滴をこぼさない。特に、この信代の性格だったら、泣いていることをごまかそうとするに違いない。そんな泣きの演技でした。

外部ブログで読んだんですが、
この時、演じ手である安藤さんは警察役の池脇さんがなにを質問して来るか知らなかったそうで、池脇さんはその時ホワイトボードに書かれた質問を読んで演技をして、それに安藤さんが答えたそうです。そこがまたリアルなその時の返しになって、自然に涙も誘われたそうです。

また、是枝監督は子役にはセリフを台本として与えず、その場でこう言ってね。と伝えるそうです。
それが、子どもたちの名演技を生み出すのですね。わざとらしい演技や棒読みがなくなりますもんね。


最後の方のシーンでリリーさんと施設に保護された祥太が、一緒に釣りをしたり、ラーメンをすすったり、雪で遊ぶ姿は本当の親子で、最後、バスを追いかけるリリーさんと窓越しに小さく、お父さんと呟く少年。

虐待する親の元に戻り、外で一人で遊ぶりんちゃん。

実の両親と暮らしているからといって幸せなわけじゃない。子どもは親を選べないし、親も子どもを選べない。
是枝監督はこれまでも繋がりや絆というテーマでいくつか作品を撮っていると思うけれど、ちょっとした台詞回しや行動が、心情を表している。祥太もりんちゃんも自分の家に帰りたいと思っていない。治も信代も彼らを拉致監禁しているわけではなく、りんちゃんには帰るチャンスを与えているし、祥太には最後、どこで拾ったかを伝えている。子どもたちに自由は与えている。家族ってなんだろうね。血の繋がりってなんだろうね。


そして、亜紀がみんなが住んでいた家に戻って、覗いた時に見たものは。

初枝さんかな。それともみんなの笑顔かな。
Stella

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