ペイン

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのペインのレビュー・感想・評価

4.7
“映画に愛を込めて ハリウッドの夜”

まず前置きしておかなければいけないのですが、タランティーノ好きの親友と初めてタランティーノ作品を観たという思い出と、リアクションの大きい賑やかな大量の外国人たちに囲まれながら満席の劇場で最高の雰囲気で観れたという体験も込みでこの点数。

正直、タランティーノ新作とはいえ私は今回は少しナーメテーターだった。皆さん仰る通り、これは完全にタランティーノ映画集大成といえる大傑作。本人が10本撮ると言っているからには10本目も観たい気がするけれど、本作で綺麗にキャリアを締め括ってくれてもいいよ?とも思えるほど。

私は彼の初期作「レザボア~」「パルプ~」辺りにおけるギミックを駆使したサンプリング感覚全快な作品も嫌いではないのだが、どちらかというと後期のギミックにあまり頼らない余裕を感じさせる円熟味を増したタランティーノ作品の方が好きだ。その意味でも本作は今まで以上に、タランティーノが“真っ向勝負”で作りあげた作品だった。なので展開がいつもの彼の作品以上に“平坦”に感じられるのはそのせいでもある。

本作はタランティーノ自身が公言している通り“タラちゃん版「ROMA/ローマ」”であり、またタラちゃん版「この世界の片隅に」とも言える。監督自身が幼少期に見た光景を虚実交えてノスタルジーたっぷりに描いた作品だ。

また実際に映画の舞台裏、内幕モノという点で観ても私はフランソワ・トリュフォー監督の「映画に愛を込めて アメリカの夜」や、フェデリコ・フェリーニ監督の「アマルコルド」、P・T・アンダーソン監督の「ブギーナイツ」といった名作映画も連想した。他にも「サンセット大通り」や「大脱走」、「リオ・ブラボー」や「大砂塵」といった大量の西部劇やマカロニウエスタンからの引用があり、私もすべてを把握できたわけではないです。

ただタランティーノが本当に素晴らしいところは、決してそういった映画の知識や引用をマウントの道具として使わないところ。タランティーノのオマージュ技巧は、ヌーヴェルヴァーグ映画の頃からある古典的なものではあるけれど、ヌーヴェルヴァーグ映画が圧倒的知識を論文のように“頭良さげに”構築するのに対し、タランティーノは「こんな映画知ってるか?カッコいいんだぜ。」と全ての映画ファンを招き入れるような、昔の映画を観たことがない人にも“あ~こういう映画あったかもしれないなぁ”と思い起こさせてくれるのである。またそれが彼が“ストリート育ちのゴダール”と言われる所以でもある。



P.S.
※以下、ネタバレ全開で内容に触れていきます。

まず、ブラピが「ファイト・クラブ」の頃の全盛期のような魅力を再び放っていることに驚かされた。彼がブルース・リーと対決するシーンは複雑な気持ちにはなったものの嬉しかった。ディカプリオは演技がますますジャック・ニコルソン化、Mr.ビーン化していて最高に笑えましたし、情緒不安定な演技はお手のものだなと思いました。またレオ&ブラピの“友達以上、妻未満”な関係性にも萌えました(笑)

そしてマーゴット・ロビー演じるシャロン・テートも最高にキュートだ。マーゴットさん今絶好調ですね!またシャロン・テートが史実でどうなるかを我々は知っているが故に、シャロン・テートが劇場で自分の出演作を観客と一緒に楽しそうに観ている何気ないシーンなどが切なく涙腺を刺激する。またそういったシーンでのタランティーノの曲使いがいつにも増して絶妙である👍

そして何とも面白い極めつけはラスト13分だ!マンソンファミリーたちが家に侵入してきたとき、ブラピ演じるクリフはLSDで完全にラリった状態。LSD常習者のマンソンファミリーがシラフで、逆にそれに対抗するスタントマンのクリフがトリップ状態という、まさに「妄想」VS「妄想」のシチュエーションを作り上げているのだ。なんとも憎い演出である💯

また、レオ様演じるリック・ダルトンの方も、突然自宅のプールにゾンビのような面持ちになった女性が侵入してきて、何が何だか分からないままに自分が出演していた映画同様に火炎放射器で彼女を黒焦げにするという始末。

こうしてタランティーノ監督の作り出した映画という「妄想」は、チャールズ・マンソンという男の作り出した巨大な「妄想」に勝利したのです。そして暴力に身を任せ、これまでもキャリアを棒に振ってきたクリフ。西部劇というジャンルの衰退により、リックからも解雇されてしまったクリフは、車のタイヤが交換されるが如く、捨てられ忘れられていく存在なのかもしれません。

そんなクリフというキャラクターにタランティーノ監督は「暴力」という狂気を背負わせ、物語から退場させたように思えました。ただ実際のシャロン・テート事件において、映画界から去ることとなったのは、純粋無垢に映画に憧れるシャロン・テートその人でした。

しかし、今作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の中で、この事件がきっかけで退場することとなったのは、集団狂気から他社に危害を加えるようになるマンソンファミリー、そして「暴力」を背負ったクリフです。

このラストにこそ、タランティーノ監督がシャロン・テート事件を映画の中で再定義した意味があるのだと思っています。また、エンドロールの“Once Upon A Time…”の出るタイミングも絶妙で涙が止まらなくなってしまいました。

長い長い感想を読んでいただけた方、本当にありがとうございました🙏
ペイン

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