真田ピロシキ

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

4.0
シャロン・テートの仇だ思い知れくそったれマンソンファミリー!というタランティーノの叫びが聞こえてきそうなオーバーキル。映画を使って歴史に復讐を仕掛けるのは『イングロリアス・バスターズ』でのヒトラー含めたナチ大量抹殺と重なる。そう言えばあの映画のクライマックスでは焼殺だったが、本作でも伏線貼ってたとは言えわざわざ火炎放射器なんて物騒な物持ち出してトドメ刺してる。TVドラマに人殺しを学んだと言って殺人を決行するファミリーをハリウッドの役者であるリックとクリフがぶっ殺すのも、イングロリアスで映画をプロパガンダに使ってたナチスへのと同じように映画を冒涜する奴らは許さないというタランティーノのメッセージに感じたり。シャロン・テートは物語の本筋に関わる事はないが、彼女が映画館で自身の出演を紹介して満足気に映画を見る描写に結構時間を使ってたのは、史実では酷い殺され方をしたために悲劇面ばかりを取り上げられがちな彼女の幸福面を描きたかったのだと思う。またポランスキーの妻以外の一役者としての面を描いているのも超映画オタクのタランティーノならではと言える。

西部劇のスターだった主人公リックは今では若手俳優に殺される悪役ばかりで段々安売りされてるぞと核心を突かれて焦っているのだが、ハッキリ落ち目の自分を受け入れてから真摯に悪役に取り組んだ事でキャリア最高とも言える演技を見せる。その後、以前は嫌がっていたマカロニウェスタンに出て帰国後に豪邸を手放す事まで決心したのは虚栄心を捨てられたという事なのだろうが、マンソンファミリーの襲撃後はテートの友人になることもあって再びスターになるであろう事を思うとちょっと再起が早すぎないかという気になった。

それと専属スタントマンであるクリフとの関係性。雇用関係にあるとは言え、家のアンテナ修理のような雑用までやらされているクリフは対等な友人と言うよりとっても心の広い使用人に見えた。リックがクリフを助ける事がない割に不満を口にしないからだろうか。まぁ一度は無理言ってクリフのスタント仕事を取り付けたんだが、クリフ自身がダメにしたからなぁ。クリフはリックと違って仕事がなくても焦る事がなく常にマイペースでどことなく不穏な雰囲気があり、タランティーノお得意の暴力の予感を醸し出していたのはマンソンファミリーなんかより断然クリフだった。対峙するスパーン映画牧場でもクリフが余裕の顔で闊歩してたしね。そりゃブルース・リーには臆さないってもんですよ。愛犬もチャーミングに見えてなかなか凶悪。ヤバイね。

W主演だがクリフの存在感が大きいのでディカプリオも良いんだがブラッド・ピットに軍配が上がるかなあ。ダコタ・ファニングが出てるという事で気になってて結構目立つ役ではあるものの妹を超えるような再ブレイクを狙えるインパクトがあるかと言うと難しい。あの役者意識の高い子役に昔のダコタを重ね合わせた人は少なくないと思う。女優じゃなくて役者よ!