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焼肉ドラゴンのdm10foreverのレビュー・感想・評価

焼肉ドラゴン(2018年製作の映画)
3.9
【叫び】

思っていたよりもウェットな感じの作品だった。だけど、どこかエモーショナルとまでは言えない何かがあり・・・。最後の最後で「これ!」っていう盛り上がりがもう一個欲しかったなという作品。

「戦後復興期の日本」を扱った作品といえば「ALWAYS~三丁目の夕日」を挙げる方も多いと思います。
でもね、気付きました?今作の設定は昭和44年から始まりますが、「ALWAYS~」は昭和33年から始まるんです。つまり10年以上も前の設定という事になります。
でも作品を観る限りでは、「ALWAYS~」のほうが時代的に先を行っているようにすら見えます。勿論、撮影技術や構成の仕方も影響している可能性はあります。
実はそれこそが日本の戦後復興の「表通り」と「裏通り」であり、「光」と「影」なんですね。
極端な言い方をしてしまうと、終戦直後の日本ってどこもあんな感じだったと思うんです。
それは韓国の方だけが特別という事ではなく。
「戦後復興」という明るい光に照らされたメインストリートでは「大阪万博」が華々しく開催され、もはや日本にとって戦争は「過去」になりつつあると内外にアピールしていたけど、その光が明るければ明るいほどに、その影も背後に色濃く伸びていく。

そんな時に「賑わう日本」の中にいながら「日本人ではない」という理由で共に歩むことが許されなかった人たち・・・しかし、今作はそこまで彼らを悲劇的に描いた作品にはなっていない。
確かに日本人と同様には生きられないという世界観は垣間見える。しかし、実はその中でも自分たちらしく生きるという選択をした人たちの逞しい日々が描かれている。

今作では3人の娘達の恋愛模様が中心となるが、そこには国籍とか経済的な格差とか関係なく「人を愛する」という誰にとっても平等に与えられた自由(権利)があった。相手を想うが故に怒り、叫び、泣き、笑い・・。決して貧しさや時代を理由にしていない「日常」があった。
そして彼女達がそれぞれ巣立っていくという親から子へ、そしてその次の世代へと繋がっていく物語。

唯一の男の子「時生」の描写は生々しかった。本当はとても快活でいい子だったのに、それこそ「在日」という理由だけで学校で苛められ、次第に心を閉ざしてしまった。
彼はアボジ(お父さん)やオモニ(お母さん)が通ってきた苦難の道、そしてこれからの生き方を投影した唯一の人物だったのかもしれない。だからこそ彼の結末は残酷だし残念だった。例えそれが当時の人々の現実だったとしても。

アボジは物静かだけど強い信念の持ち主。オモニはとにかくストレートに感情を表現する愛の人。この二人のどちらが欠けても「焼肉ドラゴン」は成立しない。
特にアボジの穏やかだけどブレずにしっかりと前を見つめる姿には、何故か安心感すら感じる。

「たとえ昨日がどんな日でも、明日はきっとえぇ日になる」

どんなに家庭の中がゴタゴタしても、決して感情を表には出さずみんなを見守る。
だからこそ、ずっと心の奥にしまっていた「傷」が顔を出したとき、その叫びがグサリと刺さった。

「勝手に故郷を奪われ、勝手に戦争に連れて行かれ、左腕も奪われた。その上この土地まで奪うんか?だったらわしの左腕を返せ!そして・・・時生を返せ!!」

アボジは決して過去には目を瞑って前だけを向いて生きてきたわけじゃない。振り切っても振り切れない過去が頭から離れないからこそ、『明日はきっと』と自分に、家族に言い聞かせてここまで生きてきたんだと、そう思ったら泣けた。

日本人でもない。韓国人でもない。じゃあ「在日」ってナニ人なの?
窪塚洋介主演の「GO」でも描かれていたテーマ。「GO」では主人公がそれに対してもがいていたけど、今作ではちょっと毛色が違った。決して受け入れてるわけではないんだろうけど問題はそこじゃないと。自分が「ここで生きていく」と決められるかどうかということ。

人間ドラマに重点を置いた作品だったので、大泉洋の出番もさぞ多いのだろうと思ってみてましたが・・・思ったほど多くない。でもちゃんと大事な役。
最近は役者としていい役のつき方をしてるな~と妙に感心。
単に同郷だから目に付くってだけでもないと思うんですよね。
で、やっぱり見ちゃうんです。
それも「同郷だからでしょ」と言われてしまうと否定しにくいかもしれないけど・・・。
でも何だろ?一種の安定感というか安心感というか、画面に彼が映るだけでちょっと期待しちゃいません?身内びいきみたいなもんなのかな?
あと個人的には真木よう子は相変わらず綺麗だね~。彼女が外の蛇口から出る水で足を洗う場面はなんとも艶かしくて・・・失礼。
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