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エセルとアーネスト ふたりの物語のmasayaのレビュー・感想・評価

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スノーマンのレイモンドブリッグズによる、激動の時代を寄り添って生きた両親の物語。独特の温かい絵柄そのままに、気忙しく時に無情な当時のリアルを描く。その最中にあってもがくように二人が守り抜いた、かけがえのない普通の日々の尊さが浮かび上がる。

生真面目で誇り高く泣き虫なエセル。陽気で楽観的で寛容なアーネスト。生まれ育ちの違いや支持政党が違いがいちいち表現されているのが興味深かった。二人も議論好きな英国人の例外ではなくて夫婦の会話で度々意見が食い違うのだけど結局互いを思っての会話の範疇に収まっているのが凄い。

戦争が忍び寄ってくる時代。まるで家具や仕事の相談をするように戦場や自国他国の政治家の話題が夫婦の会話の中心になっていく。その時々の情勢で意見は転々とするが、日常にまで踏み込んでは来ないだろうと思っている。未来のことはわからない。その時戦争は既に二人の隣に来ている。

エセルは自転車乗った青年に見初められて辞めたけど、あの当時英国上流階級の誇り高い家付き使用人として一生終える女性も多く居たんだろうな。「日の名残り」を思い出した。あの映画も同じ時代だね。

戦時下のロンドン、ドイツの爆撃機やロケット攻撃に晒されて死と隣り合わせだった。かつて愛する人に花束を捧げたその手で、沢山の遺体を抱えたアーネスト。VEデーに喜ぶことが出来ない戦死兵士の家族。日常を蹂躙する戦争は戦勝国にも容赦しなかった。当たり前だけど思い知らされた。

戦後がまたいいよね。空襲も物資の困窮も切り抜けた二人に大きくのしかかった難題が最愛の息子だったという。まあご本人だから誇張もあるのかもしれないけどずっとままならぬ存在として両親(特にエセル)を悩まし続ける。この辺は普遍的だ。
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