April01

バイスのApril01のレビュー・感想・評価

バイス(2018年製作の映画)
3.5
構成があちこちに飛びすぎて落ち着きがなく、始まりから終わりまでグチャグチャしていて混乱を極めている。それだけならまだしも奇をてらう意図だろうけれどナレーションを務める人物の日常生活まで入れておきながら、そういう顛末?というやらなくてもいいことをやってみました感が全編に渡り漂い、良く言えばチャレンジング、悪く言えば狙いすぎ。

スピーディに進むため説明してるようでしてない。登場人物に関する知識がある程度ないと置いていかれるのは必須。じっくり物語る、という姿勢は皆無。その点は好き嫌い分かれるところかと思う。

どうでもいいけど途中でエンドロール流れる演出は一体なんなのか、正直そんなことするなら、そこで終わっておいてもいいんですよ、と言いたくなるくらい迷惑。
いい意味で気持ちをシャッフルするように振り回されるのは好きだけれど、振り回して楽しむ自己陶酔的な悪趣味に強制的に付き合わせる感じ。
これはフェイクか、残り時間まだまだあるしね、ブレイクしよ!ここで辞めようかなと。その後に気を取り直して最後まで観たけどね。

クリスチャン・ベイルのなりきり本物感の演技はさすが。その他の登場人物達もよく似ていたと思う。
ただし、サム・ロックウェルのブッシュだけは、わざとかもしれないけれどコメディに寄せてる気がして、あんまり似てないからこそむしろ笑えるような。
この感じなんだっけと思ったら、コメディアンがやるモノマネ!ああいうノリで小物感を出すことに大成功している。

エイミー・アダムス演じる妻にスポットライトを当てたのは本作で一番好きな点。
存命の人物、しかも政治の中枢にいた人物をここまで赤裸々に描けているのも、そのリスクへの担保として、妻の貢献と尽力を惜しみなく称賛しているからだと思う。
ただ描くだけでなく、60年代に女性がキャリアを積んで活躍することが難しい時代の中でいかにして自分に代わって野心を実現する配偶者を得てアップダウンを共に乗り越えるかというリアルな女性像を描いていること、これはチェイニー側として反論しがたい要素だと思うので。

同時に、不都合な事実をプレゼンされても、ドロップアウトした若者がいかにして出世街道をまい進したか、心臓病を抱えながら、妻に支えられながら、しかも保守にとっては弱みとなる身内の同性愛問題など、決して恵まれた環境にない、成り上がりものの強さを描いている、と肯定的に見ることが出来る点もリスクの担保となっている。
だからこそブッシュのお坊ちゃま的な様子がコメディに見えるという、単純な左右の対立構図でないところも良い。

男性優位社会に対して女性の権利を真っ向から対立主張していく最近流行のスタイルではなく、チェイニーの妻としてしたたかに表舞台に立つ姿、しかも本来ならば自分自身が活躍し自立したい真の気持ちを抑えて、保守層の支持を得るべくウーマンリブに否定的なスピーチをするリン・チェイニーの姿は、女性の中に眠る相反する矛盾の気持ちを体現している気がして、主題ではないけれどサイドストーリーとしての強い女性の描き方に最近の映画にはない面白いものを見た気がする。
April01

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