みかんぼうや

愛しのアイリーンのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

愛しのアイリーン(2018年製作の映画)
3.9
もう吉田恵輔しか勝たん!という一度も使ったことのなかった現代言葉?を思わず使うほど、吉田監督の作品は本当にどれも面白い。これまで「好きな現代邦画の監督は誰?」と聞かれたら「西川 美和」か「今泉 力哉」の名をまず頭に思い浮かべたけど(その次に「河瀨 直美」)、今聞かれたら、まず最初に出てくるのは確実に「吉田恵輔」になりそう。

そして、本作を観て改めて感じたことは、吉田監督の作品は社会が敢えて目を瞑っているような人間の嫌らしい本質をさらけ出す社会派メッセージが込められたヒューマンドラマではあるが、それ以前に“エンターテインメント”を追究しているということ。

社会課題にもしっかり触れて伝えたいメッセージはあるのだけれど、まずはエンタメとして観客を楽しませることに徹底している。だから、テンポもいいし、動きもあるし、登場人物も魅力的だし、クスッと笑えるシーンもあるし、単純に「映画として観ていてとても面白く飽きない」のです。

本作も同じ。観る前は、国際結婚のハードルに向き合いつつ愛情を育む作品だと思っていました。いや、実際にその要素もありますが、中盤以降のこの展開は全く読めず。「うわっ!こういう方向に行っちゃうんだ!」という驚き。

はっきり言って、リアリティは落ちるし、結構ハチャメチャな展開。これが他の監督の作品だったら、現実味がなくて作品との距離ができてしまったかもしれない。しかし、吉田監督が追究するのは、まず“エンタメ”。だから、彼の作品では、むしろ「この後、どうなっていくの!?」という期待感のほうが強くなる。そしてラストまで裏切らない面白い展開。軽く流していた“姥捨て山”を、そう持ってくるか!と。最後まで油断ならない。

ただ、ちゃんと社会派メッセージはあるのですよね。本作で言えば、日本人の東南アジア人への蔑視とか、外国人の偽装結婚による出稼ぎ問題とか(本作の内容全てがそうというわけではないですが)、毒親とか・・・後半は、もしかしたらEPA協定によるフィリピン人の看護師・介護士の受け入れも暗示しているのかも(考え過ぎ?)。

ですが、あくまでも“エンタメ”がメインなので、そのメッセージ性がわざとらしくないし、説教臭くもない。だから、観ていて「ちょうどよい」バランスなのです。これは他の吉田作品の多くでも感じました(この点では、「BLUE」は若干毛色が違ったかも)。

しかも、同じような吉田エッセンスはありながらも、それぞれの作品で内容が似ないですよね、吉田監督。設定もテーマも展開も、一作一作ごとに色が異なり、作風の幅が広い。だから、飽きが全然こない。もう完全に虜です。

あ、あと、「ヒメアノ~ル」でも「犬猿」でもそうでしたが、最後にいきなり“感動ヒューマンドラマ”ぶっこんでくるのは結構卑怯です(笑)。「BLUE」以降の作品ではこのパターンはあまり見ませんが・・・

これで「ヒメアノ~ル」以降の6作は全て観ましたが、最低でも★3.9以上つけているくらい好きな作品ばかり。しかし、それ以前の作品はフィルマだと平均評価低めの作品が多いようで、若干手が出しづらい(基本的に平均★3.4以下はほとんど観ないので)。もし、「ヒメアノ~ル」以前の吉田作品で、お薦めのものがありましたら、皆さま、ぜひお教えくださいませ!
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