TAK44マグナム

来るのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

来る(2018年製作の映画)
4.2
ぼぎわんはオムライスの夢をみるか?


「来る〜、きっと来る〜🎵」
なんて歌うものだから貞子はきっとどころか絶対に来るわけですが、「ある恨みの集合体」である強力無比な邪気「ぼぎわん」も、一度狙った相手のところに絶対に来るマンだったのです!


一見、幸せな結婚生活をおくる妻夫木聡と黒木華に待望の子供が産まれます。
その頃から、妻夫木聡の周囲に「子供をさらう妖怪」と言い伝えられる「ぼぎわん」が現れはじめ、弱り果てた妻夫木聡は友人を介して霊能力者の小松菜奈に助けを求めるのですが・・・


完全なるマンガ映画。
どこをどう切り取っても、変なテンションとエグいケレン味ばかりが顔を出す、(原作はホラー大賞も受賞した小説ですが)マンガみたいな装飾をほどこされた、良い意味でバカ映画でした!

バカだけども、お話は良く出来ています。
「何故、ぼぎわんが来るのか?」
ぼぎわんの正体とその目的は終盤までボヤかされているのですが、中盤で明かされる「ぼぎわんを呼び込んだ理由」については考えさせられるものがあります。
超自然的なものを描きながら、非常に現代的な問題提起をしており、そこには驚くべき秘密が隠されていました。
下世話で、ドロっとした人間の業が自らを滅ぼしてゆくのです。

みんながみんな、裏の顔を持つ。
どのキャラクターも嘘をついて、時には自分を傷つけたり、傷つくことから逃げています。
最強の霊能者である松たか子は、それを「弱さ」と言いきります。
ぼぎわんは、その弱さにつけこむのだと。
妻夫木聡は外面ばかりのイクメンで、育児にも家事にも非協力的な上辺だけの男。
黒木華はそんな旦那に心底愛想が尽きています。
岡田准一は恋人に子供を堕ろさせたことに、小松菜奈は自ら子供を産めない身体にしてしまったことに、それぞれ後悔の念を隠しもっているのです。
松たか子の断罪は、観ていて、まるで自分のことを言われているようでハッとしたし、座りが悪くなりました。
個人的に、決して良い家庭人ではないし、ずっと悩んでいることもあって、先日鑑賞した「マッドダディ」も親が子供を殺そうとする話がヘヴィでしたが、本作も同じように、いやもしかしたらそれ以上に重たかったです。

そんなガチに真面目な話を、中島哲也監督はポップでクレイジーな独特のノリで最後まで引っ張り、達者な演者たちの存在感だけでベタなオカルトをバカらしい程に面白いエンターテイメントに仕上げています。

とにかく霊能力者たちのキャラクターがキワモノ臭くて最高!
マトリックスみたいに渋いグラサン姿で登場する柴田理恵やピンクに染まった髪もキッチュな霊能キャバ嬢である小松菜奈をはじめとして、全国から集まる巫女や神主たち・・・
しかし、何と言っても本作におけるナンバーワンのカリスマと言えば彼女をおいて他にはいません!
過去には白石晃士監督が「カルト」で登場させたNEO様という最強霊能キャラがいましたが、彼に匹敵する霊能者がついに現れましたよ!
国家権力でさえ除霊に利用し、他人に対して高慢で尊大、しかし最強無比な真のオカルト・プロフェッショナル!
そう、松たか子演じる琴子であります!
実際のところ、劇中、除霊で活躍する描写はほぼ無かったりするのですが(やっていることと言ったら岡田准一をボロボロにすることぐらい)、そのキャラがあまりにも強烈なので出番は少ないのに異様な存在感を放っているんですね。
とてつもなくマンガチックなキャラクターと言えるでしょう。

彼女がお膳立てする除霊の舞台がこれまた大袈裟で最高なのですが、ここは原作と大きく変更された点みたいです。
そりゃ、こんな設定にしちゃったら真面目に読んでもらえなさそうですからね!
何ていったって周囲を警察が完全封鎖して、すごい数のお祈りする人たちがわけの分からない呪文を唱えているかと思うと、あるテントには科学的な分析装置みたいなのが設置されていたり、よくよく見るとギャグマンガでしかないのに迫力で押し通してしまうのです。
このクライマックスのデタラメさにはビックリしたし、やはり最終決戦はこのぐらいは無茶をしないと!と思いましたよ!
ぼぎわんの攻撃(?)によって「どこのディザスター映画?」ぐらい大変なことになりますが、ここでの柴田理恵は、まるで「AKIRA」のミヤコ様みたいだ!

最終的には、ぼぎわんの正体とかそんなものはどうでもよくなり、親とは?子供とは?というテーマがはっきりしてくるのは、現代社会におけるネグレクト問題などに中島哲也監督が興味あるからなのかな?と思ったりしました。


ホラーとして怖いかどうかと問われると微妙ですけれど、妻夫木聡や柴田理恵がメシ喰ってる場面や、劇中で一番派手だと思われる事故の場面は、まぁまぁドキンとしました。
でも、これはホラー映画として観るべきものではなくて、「現代社会がすでにホラーだからわざわざホラー映画みなくても、ほら!そこらじゅうに怖い人たくさんいるじゃん!」という、人を呪ったり嘘ついてばかりの人間に囲まれていることを教えてくれる教育映画みたいなものではないかな。
薄っぺらい結婚式やマンション購入パーティの場面の方が、本当は怖いのかもしれません。


惜しむらくは、松たか子とぼぎわんのバトルの詳細が分からないところですね。
せっかくのスーパーキャラなのだから、ワンパンマンなみにぼぎわんを一発でしばく松たか子というビジュアルを観たかったなぁ。
どうせなら、目からビームぐらいだしても笑えて良かったのに。
昨今のメジャー系Jホラーの中でも突出した、お目出度い良作だと思うので、是非続編を作って今度こそ松たか子のフルパワーをみせてほしい!
なんなら貞子や伽倻子を除霊しちゃってやってください!


劇場(シネプレックス平塚)にて