キナ

来るのキナのネタバレレビュー・内容・結末

来る(2018年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

「溜め」と「爆発」のバランスが上手いジェットコースターホラーエンタテイメント。
オカルトホラー的にもサイコスリラー的にもバトルムービー的にも味わえて美味しさ100倍。
ケチャップソースもデミグラスソースも明太子ソースもかかったオムライスのような。オムライスの国に行ってみた~いな♪

上塗りだらけの夫、苦労続きの妻、寂しい子供、頼りがいのある民俗学者の友達、実力不足な霊媒キャバ嬢、胡散臭いライター、圧倒的実力を持つ霊媒師。
視点や中心に据えられる人物が目まぐるしく変わり、それぞれの裏の顔とそのまた裏の部分まで見せてくれるのがとても面白かった。

一番面白いと思ったのが、田原夫婦の対比。
まともに育児に参加せずキラキラした部分だけを切り貼りして創り出す秀樹。
わざとらしく笑顔で固めて嘘の上塗りを重ねる彼は、自分のその行動に特に後ろめたさも感じておらず純粋に空っぽな理想像を建てている。
しかし「あれ」に襲われてからはしっかり妻と娘を守ろうと必死になっていて、建前の奥の奥のほうには家族に対する愛が垣間見える。

家事育児に協力的でない夫と言うことを聞かない子供に挟まれノイローゼになる香奈。
頑張って色々とこなし苦しむ姿に共感と同情も覚えるけれど、その中に隠しきれない子供や回りの人間への嫌悪がありありと見て取れる。
どんどん家族への愛が薄れてくる反面、自己愛が強まり薄い顔に濃い化粧を塗りたくる彼女に序盤の秀樹に似たものを感じた。
血まみれのトイレからはみ出す香奈の最後の笑顔よ…。

どの人物も一癖も二癖もある者ばかり。
表面も裏面も気持ち悪くてゾッとするけれど、誰のどの要素も多かれ少なかれ自分の中にも見つけることができる。
誇張しつつもリアリティと身に覚えのある感情がビシビシと刺さってくる、人間の心の弱さと隙の描き方が絶妙。
そこに入り込む「あれ」。
人間の魂を欲する悪魔のような存在なのかな、悪霊的な。悪魔よりフワッとしてて良いな。

ザ・ジャパニーズホラーな演出や化け物との追いかけっこのような展開がスリリングで面白い。
てっきりマンションの田原の部屋にだけ来るのかと思っていたら結構フットワーク軽いのね。
そして案外パワー系の襲撃方法が好き。
妻夫木聡のはらわたが見られるとは思わなかった。最高。欲を言うなら岡田准一のはらわたも欲しいところ。

何よりも大がかりな祈祷シーンの素晴らしさよ!!
いくつもの宗教観が入り乱れ、強烈な力とリズムと混沌を感じてトランス状態になる。
映像と音響と演者の迫力が合わさってグワングワンに振り回される気持ちよさ。
もう狂おしいほどに好き。大好き。最高です。天晴れ。

やっぱりお祓いはこうでなくては。十字架をかざし水ぶっかけて現代の言葉で語りかけるだけじゃ駄目なのよ。ピンと来ないんだよ。アジア文化万歳。
ポップな作風ゆえにジメジメした暗さや重くのしかかる狂気は感じられなかったけど、楽しさで言ったら満点。
この儀式をここまでのお金と大キャストを使って作り上げてくれたことに感謝しかない。

完璧に見える琴子が儀式の最中に少し揺らいで弱さを見せたのも良かった。強いだけの人間なんていない。
野崎と真琴の寂しさと知紗の寂しさをうまく掛け合わせたラスト、これからどう生きていくんだと不安はありつつ綺麗な結末だった。

悪霊も人間も怖い。
怖くて楽しいものだと改めて思う。
家族、恋人、友達、職場。様々な人間関係と日常に潜む些細で自覚の無い悪意の鋭さがさり気なく炙りだされる。
人間の多面性を表に見せて、それを別に否定していないのが良い。
どんな人にも色々な面があって、でもそれで良いじゃないと言われているような空気を感じる。
最も、度が過ぎたアンバランスには災いがやってくるものだけど。

原作未読。読んでからもう一度観ようと思う。
中島監督ならではの演出が強く、それが非常にハマっていた。
個性的なキャラもカラフルに染まった作品の中で変に浮くことのない収め方が見事。
一瞬だけ間延びして感じられた部分があったのは残念だけど、それもその後のために力を溜めている狙いと思えば良い。
ポップでダークなショーを観たような爽快感と達成感があり、とにかく楽しかった。

関係無いけど、鑑賞後ふと気づくと自分の腕に薄い切り傷のようなものを発見した。
痛くもないし血が少し滲んだくらいの軽い傷だけど、全く身に覚えがなくて妙に恐ろしい。気付かないうちにどこかに掠ったんだろうが…。
もしかしたら「あれ」の噛み傷なのか⁉来たのか⁉︎と内心大騒ぎ。しばらく鏡と刃物を近くに置いて用心していようかな。
芋虫ドバァ。


2018.12.25 原作読了後、再鑑賞 追記

やっぱり楽しすぎる。
原作に伴いつつ色々な要素を抜粋し映画の枠の中に昇華されていて、実写化としてかなり上手いと思う。
オープニングのかっこよさが素晴らしい。

「乱杭歯」「魔導符」などの単語について、初見時拾いきれていなかったことに気付いた。
らんぐいば、まどうふ、と言われてすぐ変換するのってなかなか難しい気もする。
魔導符については野崎からほんの少し説明的なセリフが入るけど、乱杭歯についてはポンと出てきてそのままだったことが少し気になった。
私の知識が無いだけではあるんだけれども。

やっぱり祈祷シーンが楽しすぎる。
よく見ると韓国の儀式も入っていたりして、アジア最高の気持ちがさらに高まった。

秀樹の精神構造は考えれば考えるほど面白い。
津田に関してももう少し掘り下げたかったところだけど、あのキャラ好きだな。
キナ

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