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来るのdm10foreverのレビュー・感想・評価

来る(2018年製作の映画)
4.3
【アレ】

今年の劇場鑑賞100本目はこれでした。

面白かった。なんならもう一回観てもいいかもって思ったくらい(笑)。
鑑賞前の予備知識としては「ホラー・・・?」みたいな感じだったんです。
柴田理恵とかのちょっとコミカルな祈祷シーンとかが流れていたりしたから。
でも、蓋を開けてみればちゃんと「ホラー」してます。
見方によっては結構怖いです。
グロ描写も結構あるんですが、それよりも多面的に「怖い」という要素が散りばめられていて、例えば、リアルな生活の中でたまに感じる「閉塞感」や「疎外感」が爆発していく時の狂気にも似た凄みにも「怖い」を感じたりもするんですね。そこにオカルトを混ぜ込むんですが、こういう場合ってどっちかが弱くなるパターンが結構多い気がするんです。今までの傾向だと。
人間関係に疲れ果て精神を病んでいく過程で起きる不可解な現象→妄想オチみたいな。
でも、今作では妄想オチには持っていかず、「それ」をキチンと存在させて物語の中に落とし込んでいました。

―――子供の頃、ある村で一人の少女が片方の靴だけを残して行方不明となった。村ではその子の両親が虐待して殺したなどという噂まで立っていたが、当時一緒に遊んでいた秀樹(妻夫木聡)は、それが得体の知れない何かの仕業であることを知っていた。
やがて時がたち、秀樹は香奈(黒木華)と結婚し、ほどなく香奈は長女を身篭る。秀樹は喜びのあまり、子供の成長をみんなに見てもらいたいと「イクメンパパブログ」を立ち上げ毎日更新する。はたから見れば順風満帆な幸せ家族。
しかし実情はどうも違っていて・・・。
という導入。

物語は今の現実社会の中で潜在的に人々の心の中にある様々な「不安」や「恐怖」というものを上手く描いている。特に人間の内面的な「エグさ」「いやらしさ」の描き方は中島監督ならではだと思う。出てくる人間がどいつもこいつも「普通なんだけどどこかおかしい」。
秀樹の実家の母親とか、職場の同僚、昔の級友・・・逆にすっ飛んでるキャラほど意外とまともな事を言ったりする。
結婚式や新居への引越し祝いパーティの場面では、その希薄な人間関係というものが象徴的に描かれいたし、夫はブログという架空空間で褒められることでしか自尊心を保つことができず現実ではペラッペラのクズ人間であるという表と裏。ワンオペ育児に疲れ果て子供に当たってしまう母親。
これら自体が現代病と言えなくもないけど、実は各々が抱える過去のトラウマが引き金となっているとも見れる。
秀樹は自分の周りから人がいなくなることを極端に恐れ、自分の本心は見せずにとにかく賑やかな場所を好んだ。結婚式でも「~秀樹さんの周りには常に人がいて・・」と紹介されると、列席した友人が影で「・・っていうか人がいるところにアイツが来ただけだろ」と吐き捨てるように呟く。そうやって本当の自分を見せずにチヤホヤされる「アバター」に自分を演じさせることで自分を保つ。
香奈は超がつくくらいのビッチなシングルマザーから「あんたなんか産まなきゃよかった」とまで言われ、「絶対こんな女にだけはならない」と心に刻み付けて生きてきたが、気がつけば「(パートナーが)いるのにいない」という、より残酷な環境の中で子育てを行なわなければならない自分になっていることに苛立ちが隠せない。そして徐々に子供に当たっていく、まるで自分の母のように。

そういった一人ひとりの内面のドロドロがとても上手い上に、今回は役者陣の熱演も光った。前述の柴田理恵も、もっとコミカルなのかなと思ったらその真逆で、あのおばちゃん感がいい意味で「普通じゃない素人」を好演していた。
妻夫木聡は「水を得た魚」の如く「ペラい男」の役が見事にはまっていたし、小松菜奈は・・・好き。先日の「恋は雨上がりのように」から俄然好き。今回の役もイイ。
でも、一番ビックリしたのは黒木華かな。今回の演技は「鬼気迫る」っていう表現が当てはまるくらいビンビン来ましたね。時折みせる(ニヤリ)は結構ゾクゾクきました。
オカルトパートは・・・ちょっと書けない部分もありますが、中々面白いです。「面白怖い」です。これこそ「エンターテイメントホラー」なのかもしれません。
民間伝承のオカルト話をここまで本気で作り上げると、思っていたよりも骨太な一本が出来上がったなという感想です。

小松菜奈目当てにもう一回行こうかな・・・。

あとちょっぴりNBあるのでコメ欄にて
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