TOSHI

半世界のTOSHIのレビュー・感想・評価

半世界(2018年製作の映画)
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昔から老人を主人公とした映画は多いが、中年にフォーカスした作品は意外と少ない。心は若い頃のままで、いくらでも新しい挑戦ができるつもりでも、部下ができ、子供ができ、責任で身動きが取れなくなってくる。或いは、未だに何者でもないままの者もいる。そして、老いが忍び寄って来る。そんな老いるには早過ぎるが新たな挑戦をするには遅すぎる、人生の折り返し地点を過ぎた世代を掘り下げてみないのも、映画界の発想の欠如の現れだろう。本作はそんな、珍しいとも言える39歳の男達3人による人間ドラマだ。

父から受け継いだ炭焼き釜で、備長炭を製炭している職人の絋(稲垣吾郎)。ある日、中学の同級生で、海外派遣されていた自衛隊員の瑛介(長谷川博巳)が、帰ってきているのを見つけ、同じく同級生で、中古車販売をしている光彦(渋川清彦)と三人で呑む。妻子とは別れたと言う瑛介は、空き家になっていた実家を手入れして住み出す。
絋は仕事にやりがいを感じてはおらず、妻の初乃(池脇千鶴)との間の子供であり、不良グループからカモにされている明(杉田雷鱗)とは、関係が上手く行っていない。絋は光彦から、関心を持っていない事が明にバレていると、鋭い指摘をされる。生業を持ち、父親でもあるが、本当はまだ何者でもないのだ。しかし瑛介に仕事を手伝わせ、会話をする中で、絋の日々は変化し、他者を意識する事で、明への態度も変わっていくのだった…。

人生何もないと感じている四十前の男を演じるには、アイドルとしてサクセスした稲垣の起用は無理があるだろうと思っていたが、これが良いのだ(炭職人としては、小奇麗で所作が優雅過ぎるが)。同じく無理を感じた、稲垣・長谷川・渋川が同級生という設定も、観ている内にこのキャスティングしかないと思えた(三人の関係は、二等辺三角形に例えられる)。俳優の新たな面を引き出し作品世界に昇華させた、阪本監督の手腕が光る。田舎の主婦である初乃を演じた、池脇の存在感も印象に残った。

本作を貫く構図は、世界と世間だ。世間が全ての田舎でずっと暮らしてきた絋の家族の元に、世界を見てきた瑛介が戻って来る事で、絋は自らの仕事・生活の小ささを意識させられながらも、その価値を再認識し、それも一つの“世界”だと思い至るのだ。「半世界」とは不思議なタイトルだが(写真家・小石清の遺作のタイトルから取られているという)、人生の半分の地点、或いは世界の半分の世間という意味が込められているのだろう。
暴力性を秘めた瑛介が体現するように、映画にどこか不穏な空気が漂うが、世間も世界だと肯定する裏で、自衛隊の派遣など世界情勢から切り離され、無関心でいる事で成立している半分世界の怖さを提示する事に、本作の本当の意図があるのかも知れない。

絋の意識が“人生何も無い”から“人生悪くない”に変わったかのように思えた矢先、起こるドラマに驚かされた。
テーマ性に対して、ラストのシークエンスは疑問があったが、阪本監督らしさが現れているとも言えるだろう。

昔と比べると、中高年のイメージは全く違う。良く言えば若々しく、悪く言えば子供っぽいのだ。本作の3人も“不惑”とは程遠く、自分を確立しておらず、惑いっ放しである。それ故にリアルなのだが、40歳を過ぎても自分を確立できず、惑いっ放しでも良い。子供のまま老いて、恥を晒したとしても、死ぬまでは生きる事が大事なのだと感じた。
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