SPNminaco

追想のSPNminacoのレビュー・感想・評価

追想(2018年製作の映画)
-
エドワードとフローレンスは新婚旅行先でいざという時を迎えるが、なかなかできない。溢したワイン、少し開けた窓、テーブルの下の手と足、吸血鬼の映画…それとなく暗喩する性的な緊張感。そしてぎこちない会話、強張る身体と心、脱げないワンピース。更に、時代背景には自由と分断を象徴するR&Rと鉄のカーテン。
バイオリニストであるお嬢様と大学出た労働者階級の男、育った環境は全く違う。それでも結婚できたというのに、エドワードはどこか萎縮して、ブローレンスは不安に怯えてる。純粋に愛し合う2人の間で見えない障壁となっているのは階級差なのか、それとも…いやあ、これは辛い…。邦題はむしろ『追想』より『追憶(THE WAY WE WERE)』の方じゃないか。愛があるからこそ幸せになれない。
最も象徴的なのは2人が重なる構図のショット。海辺を歩くオープニングから、テーブルで向き合い、ベッドで身体を重ね、舞台と客席で向き合い、映画館と海辺で並んで座り、そして前後に重なり合う立ち姿。2人が同じ方を向いている時は幸せ、だが向かい合うと上手くいかない。やがてとうとう背中合わせになってしまう。背を向けたのはどちらか、そこがまた残酷。フローレンスの親が元凶と示唆されてるけど、彼は何も知ろうとしない。
鮮やかな幸福の色ブルーを纏い抑圧と解放の間で引き裂かれるシアーシャ・ローナン、いっぱいいっぱいなワーキングクラス版エディ・レッドメインみたいなビリー・ハウル。回想シーンを挟みながら主な舞台はホテルの一室、殆ど2人芝居を観るようだ。暗喩を散りばめたビジュアルとこれまた象徴的な音楽の選曲が、優雅に冷徹に突きつける苦い試練。青い鳥が逃げてしまった男には、叶わぬ思いだけがいつまでも残るのだった。
SPNminaco

SPNminaco