Inagaquilala

希望の灯りのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

希望の灯り(2018年製作の映画)
4.1
いきなり、ヨハン・シュトラウスの「美しき青きドナウ」のメロディーに乗せて、巨大なスーパーマーケットの中をフォークリフトが行き交う。スタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」のワンシーンのようだ。舞うように走るフォークリフトがまるで宇宙船のように見える。いったいどんな作品が始まるのだろうかと面食らうが、これはタイトルが出るまでのイントロに過ぎない。本編は、スーパーマーケットで働くことになった主人公クリスティアンの初日から始まる。全身にタトゥーがあるクリスティアンは、責任者か大きなサイズの制服を与えられ、タトゥーを隠すように申し渡される。試用期間として働くことになったのは、飲料部門の在庫管理。そこで彼はフォークリフトの運転の指導を受ける。つまりこれが冒頭のシーンとつながる。

クリスティアンはどうやら過去に問題があったらしく、スーパーマーケットにやってきた昔の悪い仲間からも声をかけられたりする。彼を指導するブルーノは、そんなクリスティアンを温かい目で見守る。ある日、クリスティアンはコーヒーの自動販売機の前で、既婚で年上のマリオンと出会い、彼女に惹かれていく。基本は主人公とマリオンのラブストーリーとして進行するのだが、そこに職場で彼を指導するブルーの人生が絡む。監督によれば、作品は、横長のシネスコで撮影し、その左右の3割をカットしたという。それによって、デジタルでは表現できない、輪郭のが朧げな映像を企図したのだという。画面は全体的にくすんでおり、色調も全体的に暗い。

もちろん、物語もそれにマッチしたもので決して明るくはない。主人公と人妻のマリオンが何回か会うシーンでは、海は登場しないのにバックに波の音が流れ、かすかな違和感を抱かせる。この波の音については、最後に「解答」が与えられるのだが、監督は音には細心の注意を払ったのだという。劇中に流れる音楽も、意図的にそぐわないものを選んだという。スーパーマーケットいう閉じられた空間のなかで展開するヒューマンドラマだが、映像や音響に趣向が凝らされており、かなり味わい深い作品となっている。じっくりともう一度、観たい作品だ。ちなみに原題は、「通路」の複数形で、これは原作小説(クレメンス・マイヤーの短編小説「通路にて」)のままだという。「未来を乗り換えた男」のフランツ・ロゴフスキが主演のクリスティアンを演じ、ドイツアカデミー賞で主演男優賞を受賞した。マリオン役は「ありがとう、トニ・エルドマン」のサンドラ・フラー。ということで、最近、ドイツ映画が気になってきた。
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