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家へ帰ろうのKUBOのレビュー・感想・評価

家へ帰ろう(2017年製作の映画)
3.8
12月最初の試写会は「家に帰ろう」。

「1945年のポーランドで、ユダヤ人に何があったか知っているか?」

終戦時、命の恩人である友人へ仕立てた服を届けるために、アルゼンチンからひとりポーランドへ旅立つアブラハム。

アブラハムの着ているブルーのストライプのスーツがオシャレ! これ、マジでほしい! それに、アブラハムは、一見頑固で偏屈だけれども、本当はオシャレでとってもチャーミング! 行く先々でトラブルに見舞われるも、なぜかそれぞれの地で善意の美女に助けられながら旅を続ける。

なんかオシャレな寅さんみたいだ。

1945年以来、70年ぶりにポーランドを目指すアブラハムは、それまでの社会の変化が何もなかったかのように、「ポーランド」という国名すら口に出せずに、「ドイツ」国内に足を踏み入れることすら拒否する。

終戦当時から時間が止まったようなこのアブラハムは、あたかも「帰ってきたヒトラー」の真逆とも取れる。今のユーロの現状など何も知らずに、あちこちで笑われたりもする。

冒頭に挙げた台詞「1945年のポーランドで、ユダヤ人に何があったか知っているか?」と聞かれ、アブラハムと出会った若者たちは口を揃えて「だいたいは」と言う。かくいう私たちはどうだろう? だいたいは分かっているのだろうか?

本作では、あえてその辺の残酷すぎる描写はせずに、それをほのめかす映像とアブラハムの語りだけに留めている。

冒頭、アブラハムだけがふらふらと逃げるように戻ってきたのは「いつ」で「なぜ」なのか? アブラハムの妹は1カ月早く産まれたために「どこ」に運ばれ「どう」なってしまったのか?

この作品を見た後に、「Life is Beautiful」などを見れば補完できる。未見ならばぜひおススメしたい。

旅路の果てにアブラハムを待っているものは…。

温かい涙のあとに、終戦で止まっていたアブラハムの時計が再び動き出す。


【プレス読後の追記】

本作の物語は、パブロ・ソラルス監督の祖父の実話にインスパイアされて作られたもの。ポーランド生まれのユダヤ人の祖父を持つ監督が、映画好きな祖父のためにどうしても映画化したかったという作品だ。

作品内に出てくるおもしろいエピソードも、ほぼ監督が実際に見聞きしたことが元になっている。


(余談)
アブラハムは戦後70年経っても「ポーランド」と口にすることも「ドイツ」に足を踏み入れることも拒絶した。第二次大戦時に想像を絶する苦難を強いられた人たちは、各国にいる。ユダヤ問題然り、広島・長崎の原爆問題然り、南京大虐殺然り。だが、いくら嫌日教育をしていると言っても、日本の土を踏むのを嫌がる中国人もいないだろうし、ましてやアメリカに行きたくない日本人もいないだろう。世界はグローバル化の道を進んでいる。

だが、やはり、こう言った過去の過ちを忘れてはいけない。風化させずに伝えていかなければ。たった70年前、人類はこれほど愚かだったということを。

昨今、世界各地で「◯◯◯◯・グレイト・アゲイン!」などというキャッチフレーズで右傾化が進んでいるが、この潮流が世界をかつての民族至上主義の世界に戻してしまうようなことがあってはならない。
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