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ライトハウスのこどものレビュー・感想・評価

ライトハウス(2019年製作の映画)
5.0
A24、、、

手首の角度まで計算された体躯が美しい、ウェイクが目から光線を発するショット。著名な現代アーティストDan Hillierの作品『ground』と似ていると見た瞬間に思った。跪いたキリストが顔面から光線を発し、照らされた地面から花々が生い茂る様子が描かれているというものだ。本当はSascha Schneiderというドイツの画家の『Hypnosis(催眠術)』という作品が参照されたようである。しかし、どちらも光線を用いて「花を咲かせる」「催眠術にかけ、人間を洗脳する」といった超常的な御業を描いていることに変わりはない。
今作に於いて怪しげな光線と云えば、やはり灯台である。あの不気味な灯台は何か神秘的な力を宿していて、それに触れてしまったが故にウィンズローは狂ってしまったのだろうか。或いは、絶対の君主、己を神が如きに振る舞うトーマスの奴隷的使役に洗脳され気が狂れてしまったのだろうか。

そうではないと考える方が、楽しい。

なにか灯台が怪しい力を秘めていたせいでみんなおかしくなりました、ちゃんちゃんではやはり味気ない。そして、トーマスの度を超えた高圧的振る舞いによって徐々に精神に異常をきたしたという見方は、後に度々登場する事となるウィンズローの耐え難い欲情のモチーフである「人魚」が初日から彼の夢に顕れていることから否定出来る。

つまり、ウィンズローは初めからおかしな人間だったということである。
いや、ものすごく「弱い」人間だったと言った方が適切かもしれない。

そう、私はこの物語のテーマを「人間の弱さ」だと捉えた。

作中、何が真実で何が空想なのかが分からなくなっていき、両者の境界が溶け合い曖昧になっていく。この辺りの造りは、同A24の『アンダーザシルバーレイク』を思わせる。あの映画の主人公も、自分の人生がパッとしないことを周りのせいにし、やがて身の回りのもの全てが巨大な陰謀によって支配されていると思い込む。まさにウィンズローも同じなのである。
ただ、己が弱さ故に罪を犯し、己が弱さ故に乗り越えられず、己が弱さ故にそれを環境のせいにする。自分に都合の悪いことは、自分の都合のいい様に脳内で書き換えればいい。それがオカルトじみていようが関係ない。自らの罪の重さに直面するくらいだったら、バケモノにでも襲われる方がラクなのだ。そんな憐れな弱い人間がウィンズローなのだと思う。
彼の空想を助長させるアルコールが、本作では現実逃避の象徴の様な存在として描かれている。ウィンズローは生首や神々までもが登場する壮大なミステリー世界に自らが置かれてしまったと思い込むのに、そう思い込ませているのが単なる酒だというのが悲しいほど滑稽である。

アンティークレンズで撮影されたという本作は、いたる所に「静」の美を感じた。だから映画を見ている最中に絵画のことを思い出したりするんだろう。全編に渡ってにそうなのだが、特に海の表情を観ていると画作りが「堅い」という印象を強く受ける。北方ルネサンスを思わせる画作りがまさに絵画的で(純粋にモノクロだから彩度の低さがそれに近いということはあるけれど)落ち着きのある良い映像だった。そんなことを思っていたら、公式のサイトでデューラーの名前が出てきてドキッとして、嬉しくなってしまった。
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