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ニトラム/NITRAMのこどものレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
4.5
母はニトラムの子育てを後悔しただろうか。
息子が歴史に名を残す大量殺人犯になったことを知って、彼に人並みの人生を期待したことを後悔しただろうか。

美しく光を透かしたような映像美が象徴するように、ニトラムの半生はそんなに悪いものではなかったのだ。障害を持つ息子に対して、厳しめの母、寛大な父と両親でバランスを取っていたと思うし、近所のヘレンだって、赤の他人であるニトラムに限りないほどの愛を与えていた。
沢山の愛に囲まれて、バケモノとして産まれた彼は、バケモノの形のまま成長していったのだ。

この映画を観て、適切なタイミングで然るべき処置を〜などと宣う人間の思考が理解できない。
じゃあどうすれば良かったのか、具体的に教えて欲しい。そんなもの誰にも分からないのに。分からないからまた悲劇は繰り返すのに。確実に。
どうすればポートアーサー事件を回避できたのか、明らかにそれを考える為の映画ではない。

ただ、ニトラムは産まれてくるべきではなかった生命なのだ。
それだけなのだ。
そういう生命は、紛れもなくこの世にはある。
そんな哀しき人間の生活を、ただ克明に描写したのがこの映画なのだと思う。

そうでなければ、ニトラムのパーソナルな部分を切り口に大量殺人に至るまでの過程を描く映画のラストに、オーストラリアに於ける銃規制を巡る情勢をテロップインさせることに疑問が残るはずだ。

あれが意味するのは、生まれながらの殺人犯を止めることは出来ないから、必ず犯罪が起きることは前提として、少しでも被害を減らす為の試行錯誤をすることぐらいしか我々にはできないということ。

美しくて、生身を剥き出した、絶望の映画。
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