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オッペンハイマーのこどものレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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「科学者なら何をしてもいいと?」
「才能で償える」


原子爆弾という人類の新たな「火」。劇中でもプロメテウスの神話が引用されるが、オッペンハイマーは正に神の所業と紛うほどの発明を成し遂げた。それはたった1つで世界のパワーバランスを変えられるほどの力を持っていて、保持するだけで自国を守り、周囲の動きを鈍化させることによって、他国にも仮初の平和を齎す。
そしてその威信は、実際にヒロシマとナガサキの地を摂氏4000℃の熱で灼くことで得られたのだった。

この映画は、映画館で、「誰か」と観るべき映画だ。友達や家族という意味ではない。劇場で前後左右に座った誰か。名前も知らない「日本人」と共に観るべき映画だ。
原爆投下場所の会議のシーンや、マンハッタン計画の「成功」を受け、オッペンハイマーがアメリカ国民に賞賛されているシーンなどを観ている時、今まで生きてきてこれほどまでに日本国への帰属意識を持ったことはなかった。劇場という小さな空間が、もうひとつの「日本」となって、スクリーンの中のアメリカと相対している。そんな心地になった。別に憎いとか悲しいとか、そんな気持ちではない。ただ、どこまでも深く付けられた傷とその衝撃が、80年が経過した今、直接体験したわけではないこの身体に宿った魂に響いていた。

オッペンハイマーの言っていた「大気の引火」とは、まさにこの事ではないだろうか。
原子爆弾による意図せぬ連鎖的熱核反応。
投下から80年が経とうとする今でも尚、疼く我々日本人の魂に刻みつけられた傷。胸中で未だ渦巻く沸々とした行き場のないこの想いこそ、彼がこの世に残した「火」の熱だ。
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