JT

シシリアン・ゴースト・ストーリーのJTのレビュー・感想・評価

5.0
ひたすらにこの物語を抱きしめて
いつまでも離したくない
そんな狂おしいほどの愛で溢れた

2019年2本目 劇場はこれが初めて
原題 『Sicilian Ghost Story』

この作品を知った時からすでに感じてわかっていた
私にとって他にない特別なものになるこということを

初めてこの映画の予告を観たのはひと月前で、その日から今日までこの作品のことを考えない日はなかった
本当に好きになったものって自分のものにしたいというか独り占めしたいと思うもので、自分だけが知っていたいそんな気持ちにすらなってしまった

物語は、1993年にシチリアの地で実際に起きた「ジュゼッペ・ディ・マッテーオ事件」 に基づいており
13歳の少年のジュゼッペが誘拐され、25ヶ月間監禁されたのち殺されたという事実から本作はそのジュゼッペに想いを寄せていた架空の人物で同級生の少女ルナとジュゼッペに焦点を当て、ファンタジー調に仕上がっている
しかし悲惨な現実もしっかり突きつけて、話の本質を忘れさせない作りでどこをとっても素晴らしかった

現実と幻想の世界、悲惨な現実に打ち勝つもの、それは紛れもなく人間の想像力、フィクションの世界
現実逃避、と悪い意味で使う者もいるが決して違う
映画を観る意味、作る意味、何かを感じたくて、何かを求めて、想いを伝えたくて、分かち合いたくて
現実をより良い方向へ持っていくためにこれらの感情は他者を思いやることに必要不可欠なものだから
この作品は映画のあるべき姿で、本質そのものであり、さらには人間にとって普遍的概念である"死"をも超越する正に現実に勝る映画なのだ

黒い社会
どの国にも子どもには理解し難い闇がある
シチリアではマフィアで日本だと暴力団やヤクザそれに糸を引く政治、警察など、どれだけ正義をふりまいても、優しさ、愛だけでは太刀打ちできない社会
子どもの理屈を通さない大人
大人になれば理解できるかもしれない
でも13歳の少女にとって現実はあまりに酷かった
大人が口をつぐむ中で立ち向かうルナ、善悪とか正義からとかでもない、ただただジュゼッペへの愛だった

物語の中盤にジュゼッペがあることを始めるようになったところからもう泣いてしまっていた
感動って言葉では物足りないほど必然的にに出た涙で
ふたりの想いが私の想いと重なった瞬間だった

音楽も素晴らしく、予告と本編で使われた
Soap&Skin の "Safe With Me"
美しい歌なのはもちろん神秘的と言うべきか、一言二言の言葉では容易に表現できるものではなかった
歌詞の一節に"We'll meet to blend"(私たちは出会って混ざり合う)とあって、強いて言うなら"ブレンド" という言葉が一番この作品に合っていると思う
ルナとジュゼッペのようにふたつの対象が出会って混ざる、映像と音楽、物語と音楽、実話とおとぎ話、現実と幻想、少年と少女、まるで運命づけられていたかのように美しく完璧に融合する、これほどまでにマッチした音楽は初めてだった

好きになった理由のひとつとして音響がある
水の滴る音
風の音
風に揺られる木々の音
草のさざ波
小鳥のさえずり
吠える犬
波打つ鼓動
耳をこらさなくても自然と耳に残ってしまう音に溢れて胸騒ぎがする
大人による支配を暗示しているのだろうか
一見のどかな自然の音も何かを警告するかのようなざわめきに聞こえる

瞬きをすることも、呼吸をすることさえもためらってしまう

ずっと頭の中で鳴り響いてる
ジュゼッペの名前を叫ぶルナの声が

忘れられずにいる
ふたりがみた幻想を

見守るしかなかった
ふたりの姿を

祈るしかなかった
ふたりの結末を

現実を美化しているだけなのかもしれない
でもせめてこの話の中では...
せめてふたりの夢の中だけでも...
助けさせて欲しい
そんな想いが作り手から伝わってきた

そして過酷な現実は愛で満ちて
ひとつの救いとなった
JT

JT