シシリアン・ゴースト・ストーリーの作品情報・感想・評価

「シシリアン・ゴースト・ストーリー」に投稿された感想・評価

SyoCINEMA

SyoCINEMAの感想・評価

5.0
これほどとは思わなかった。自分の全てをかけても、この映画のひとかけらにすら匹敵できない。
ここまで愛を、作品に注ぎきることができるのか。自分が持つ感性のありったけを、映画のために差し出すことができるのか。そして自らを犠牲にして、誰かを救済できるのか。
最初に心惹かれたのは、美しく、幻想的な世界観。でもその中身は、現実を改変するほどの愛の力。ただの「映画」じゃない。これは、僕にはまだ言葉にできない「何か」だ。

イタリアで1990年代に実際に起こった誘拐事件をモチーフにした、幻想的なラブストーリー。両想いになった直後、同級生が消えた。家を訪ねても門前払い、大人たちに相談しても皆口をつぐみ、警察も取り合ってくれない。過酷な現実に押しつぶされそうになりながらも、少女は懸命に少年を捜し歩くが……

この作品が突出して素晴らしいのは、現実に起こった事件をそのまま描くのではなく、ファンタジーの文脈を混ぜ合わせることで残酷ながらも美しい「物語」に仕上げていること。そしてその結果、ある1つの“救い”を提示したことだ。
つまり、物語という“想像”は、どうしようもなく冷徹な“現実”を塗り替える力を持っているということ。現実は現実で、改変できない。それでも筆をとる。カメラを回す。その理由は、1つしかない。
表現者にしかできない「優しい救済」に、僕は自分でも驚くほど心を持っていかれてしまった。ただ、「泣いた」のとはわけが違う。圧倒され、その結果涙が流れ出た感覚だ。観ている僕としては、泣いている感覚すらなかった。
ただただ、作り手のことを思った。どんな気持ちでこの作品を作ったのだろう。どうやったらこんなにも繊細に、感性の一つひとつを祈るように捧げて、シーンを編み上げられたのだろう。

映画というのは、長い時間をかけなければ作り上げられない。その期間中ずっとこの感覚を保ち続けて、作品を優しく抱きしめて、暖かく見守り続けた人がいる。こんなにも愛情を注ぎ続けた人が。そのことが痛々しいほどに伝わってきて、才能や感性に驚かされると同時に、注がれた愛情の大きさに僕は涙を引き出されてしまったのだ。
それは多分、僕自身が物語を紡いできた人間であることも大きい。創作の可能性と意義、そして覚悟を、新たに教えてもらえたから。頭というよりも感覚で、分かる。これは、できない。だってこの映画は、愛と祈りでできているから。少女が世界の全てより少年を愛したように、作り手たちは自分の日常も人生も全て投げ打って、この作品を愛で満たしたのだろう。傑作という言葉で説明するには、清廉すぎる。ここまである特定の人物に向け、その人の全てを肯定し、浄化しようという想いで作られた作品には、出会ったことがない。

物語の中身に入るまでにずいぶん言葉を積んだけれど、この映画を特別にしたのは作り手の「想い」だ。それなしでは、成立しえなかっただろう。
ここからは、それを踏まえて中身について、書ける範囲で紡いでいきたい。

2人は13歳。1人ではまだ何もできない少女と、ある事件に巻き込まれて囚われた少年は、残酷な現実に押しつぶされるだけ。大人たちは、何かを恐れて少女に耳を貸そうとしない。2人に唯一残されたのは、想像力だけだった。
この設定がとてつもなく狂おしく、胸をかきむしるほど切ない。美しく幻想的なシーンが描かれれば描かれるほど、現実世界で2人の運命は離れていくのだ。

少女と少年は、夢の中で巡り会う。誰にも邪魔されない、2人だけの自由。ここなら話せる。手も繋げる。一緒にいられる。永遠なんて、短い。
キスすら描かれない2人のイマジネーションに、涙を止められなかった。何もいらない。ただ、もう一度会いたい。それだけできっと、全てがうまくいく。
2人の切なる願いは、どんな結末を迎えるのか……

もちろん彼女も、ただしくしくと泣いているわけではない。手がかりを求めて町中を歩き回り、学校にも通えなくなるほど思いつめ、夢で出会った少年を求めてさまよい続ける。「彼は生きている」、その希望だけを握り締めて。だが、携帯電話もパソコンもない中高生にできることは限られている。行動範囲も、思考も。時間だけが残酷に過ぎていき、人々は少年を忘れようとしていく。まるで、それが定められているみたいに。

2人が空想に逃げ込むしかない、過酷な現実。なぜ少女は、独りになったのか? なぜ警察は動かないのか? 大人たちはその話題を避けるのか?
まず簡単に、その理由を説明したい。ぴったりな映画がある。「ゲティ家の身代金」だ。
史実に基づいたこの映画を観ると、イタリアという国が持つ暗部が少し分かってくる。もちろん、こちらの舞台は1973年で本作の舞台とは20年の開きがあるけど、一つの参考として。
それは、マフィアの存在だ。
マフィアというのは武力と権力をもって町の秩序を守る存在でもあり、逆らわないことが市民のルールだった。この映画の少年には、父親がマフィアと繋がっているという事情があったのだ。その部分は序盤で説明されるのだけれど、そこを踏まえてこの映画を観ていくと、大人たちが何に恐れをなし、口をつぐむのかが見えてくる。
日本的な感覚でいうと、「神隠し」に近いかもしれない。いわゆる「もうどうにもならないから諦めろ」というやつだ。日本の場合は「神」だけど、イタリアの場合は「マフィア」だった。彼らに目をつけられたら、もうそこで終わり。恨んでも、追いかけてもいけない。ただ忘れることが、1番傷が浅く済む解決策だ。
だがそんな理由、13歳の少女が受け入れられるわけがない。だからこそ、大人たちは何も言わない。彼女を無視することで「大人になれ」と伝える。

観ている僕たちは、分かる。大人の世界の暗黙のルールに、彼は絡めとられてしまったのだと。そうしてきっと、僕たちは諦めてしまう。
ある程度の年齢になれば、例えば死と税金は避けられないと気づくだろうし、世の中には絶対に逆らえない相手がいるということは分かってくる。でも2人は、絶望を悟るにはあまりに若すぎて、純粋すぎる。不意に暗い表情を見せる大人たちが不可解で、気持ちが悪く、意気地なしだと感じてしまう。
自分が行動するしかない。でも、じゃあどうする? そう、ほとんど何もできない。車も運転できない。お金も稼げない。行方不明者を捜すすべがわからない。でも今この瞬間も、恋人はつらい目にあっている。このジレンマが、幼い彼女にはどれだけ堪えただろう。
生まれて初めての恋がつぶれていく少女の姿はあまりに脆く、同情を感じるには不安定すぎる。自衛のすべすらまだ身につけていない彼女は、絶望にひしゃげ、動けなくなっていく。そうしてたどり着くのが、「想像」だ。

この映画は、驚くほど美しいシーンで全編彩られている。少女と少年の感性は閉塞感にまみれた現実を飛び越え、夢の中で何度も声を、言葉を交わし、星の下で、月の元で、水の中で何度もめぐり合う。彼がどこに囚われていても、彼女からの想いは壁や格子をすり抜けて届く。彼女が冒頭、初めて送ったラブレターのように、拙い愛の言葉が彼を温めてくれる。

音像も見事に設計されており、例えば野原を歩いているとき、背後でかすかに別の音が流れている。彼女が馬小屋を歩くとき、心臓の鼓動が聞こえている。常に「ここではないどこか」の世界が観客に伝わるように描かれていて、少女と少年の隔絶された世界が心によって繋がるさまを表現している。

四面楚歌の状態で、少女の唯一の武器は「想像力」だ。映画は過酷な現実を映しながらも、何とか2人を救おうとする。あるときは動物の姿で、あるときは音像で、柔らかく清らかな映像で、運命に抗おうとする。
この映画はその部分が非常に稀有で、どういうことかというと映画自体が現実と格闘しているのだ。囚われた少年、恐れをなした大人たちといった部分を克明に描写しながらも、作り手たちが2人を再び引き合わせたいと願い、懸命に紡いでいるのが伝わってくる。
僕が冒頭、「優しい」と書いたのはそのためだ。作り手の祈りと願いと愛で出来たこの映画は、劇中で再現される”現実”を、愛で丸ごと塗り替えようとしている。
何が“虚構”なのかは映画を観てから知っていただくとして、この映画で描かれる全ては、2人のために用意されたものだ。僕たちはそれを観ながら、思いをはせる。そうして僕たちの心に、2人の命が宿る。僕たちは一人ひとり、自分の中に宿った少年少女を護るだろう。抱きしめて「もう大丈夫だよ」と語りかけるだろう。そこで初めて、安息が訪れる。

大人たちは、行動しなかった。
でもこの映画は、25年かけて救った。
これは空想でも、虚構でもない。
事件と同じ、紛れもない“事実”だ。
小夜子

小夜子の感想・評価

3.8
気の強そうなヒロインが良い!悲惨な事件をもとにしながら、悲しくて美しいラブストーリーが展開される
mizuki

mizukiの感想・評価

4.0
自分の中でのザイタリア映画ど真ん中だった。今までベストだった『題名のない子守唄」に次ぐ傑作。
pipboy101

pipboy101の感想・評価

3.0
とにかくひたすら画面が暗いというのに加え、現実と幻想の描き方そのものに新鮮味がない。

「イタリア映画」という物珍しさを差っ引くと、作品自体の質としては厳しいのではないかな、というのが率直なところ。

実在の事件を元にしているだけに、起こったことには胸は痛むけれど、、、。

とはいえ、普段なかなか観る機会のないイタリア映画をスクリーンで観ることができたのは貴重な機会だった。
りさ

りさの感想・評価

4.0
イタリア映画祭にて。
美しい主人公二人とシチリアの風景に、あの残酷なストーリーは、あまりにもツラい。少し独特なテンポ感と映像と音響表現でスムーズに感じられない部分もあったけれど、忘れられない作品になった。
なつ

なつの感想・評価

4.0
🇮🇹イタリア映画祭🇮🇹
25年前、シチリアで起きた凄惨な事件から寓話的な恋物語を紡ぐ。
本作は、監督から13歳の少年ジュゼッペへのレクイエムだろう。
実在の事件に着想を得たとか、実話です、て映画は山ほど観てきたけど。
観たことない描き方で、この映画の事も、彼等の事も絶対に忘れない。
忘れられない、そんな映画だった。
13歳の少年が忽然と姿を消したのに無関心だった街の人々へ、小汚いマフィアたちへ、少年のこと・事件のことを忘れない、美しいだろ、あんたたちと違って、
なんか、そんな風に言ってるような気もした。
少年、少女の意思の強い澄んだ瞳、真っ直ぐな想い、美しく何時何時までも、頭と心にこびりつく。
mosfilm

mosfilmの感想・評価

2.0
冒頭の微笑ましいティーンエイジャー恋愛から徐々に絶望的な状況へ…
幻想と現実の交差、凝ったカメラワークと相まって緊張感溢れる作品となっている。
特筆すべきは主演の若手男女優。喜び不安焦燥苦悩と変化を大袈裟でなく抑えて演じたユリア・イェドリコフスカは見事! 対するティモシー・シャラメも動き少ない状況でも説得力ある演技を見せている。
まぁ、実際に監禁された挙句に殺された少年がいた云々、重くて救いようのない作品なんだが、希望を感じさせる最後の短いシークエンスが上手。
アメブロを更新しました。『【イタリア映画祭】「シチリアン・ゴースト・ストーリー」離れてもなお想い続ける気持ちが伝わって行く』https://twitter.com/yukigame/status/990610721233776640
まさわ

まさわの感想・評価

4.0
実際に起きた凄惨な事件に対抗するように、シチリアの自然の美しさや歴史ある街並み、少年少女のひたむきさなどが強く描かれている。水を媒介に少年と少女は何度でも会うことができる。
eigajikou

eigajikouの感想・評価

4.0
1993年シチリアで13歳の少年がマフィアに誘拐され779日間監禁後殺害された実際の事件。少年のGFを主人公にし、美しい自然やピュアな恋、幻想的な描写を織り込み再構築。当時を知る人々には特に苦い内容だがシチリアでの評判も良かったそう。学校での上映が続いているとのこと。
衝撃的だけど静かで繊細。
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